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『日本文学史序説』Paragraph Briefings 日本文学の特徴について

加藤周一
11 /27 2022
日本文学の特徴について
 日本文学の著しい特徴に関する5つの視点
  第一:文化全体のなかでの文学の役割
  第二:歴史的発展の型
  第三:言語とその表記法
  第四:文学の社会的背景
  第五:世界観的背景
 この5つの特徴相互の関係を検討すれば、日本文学における時代を一貫した固有の構造(の少なくとも一つの模型)が明らかになり、日本文学の歴史は、この構造の枠組みのなかで秩序だてて叙述可能と思われる。

文学の役割

日本文化のなかでは文学と造形美術が重要である。
日本人は、その思想を抽象的な思弁哲学のなかでよりも具体的な文学作品のなかで表現してきた(『万葉集』、平安時代の和歌と物語)。
日本には抽象的・体系的・理性的な言葉の秩序を建設することよりも、具体的・非体系的・感情的な人生の特殊な場面に即して、言葉を用いるという文化的傾向が存在する。

日本人の感覚的世界は、抽象的な音楽においてよりも、造形美術殊に具体的な工藝作品に表現された(仏像彫刻、絵巻物、水墨画、狩野派、琳派)。

日本文化の全体が、日常生活の現実と密接に係り、形而上学的世界に関わることを嫌ったことにより、日本では、文学史が日本の思想と感受性の歴史を、かなりの程度まで代表する。

日本に類似して文学の国である中国も、中国的伝統の中では包括的体系への意志が徹底していたという点で、日本とは異なる。日本文化の内容は、包括的体系の分解であり、形而上学的世界観の実践倫理と政治学への還元ということになる。

比喩的にいえば、日本では哲学の役割まで文学が代行し、中国では文学さえも哲学となった。


使用書籍
・『加藤周一著作集』巻4・巻5 平凡社 1983年



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