漱石・読んだふり 『吾輩は猫である』 各論⑦ 七
漱石
漱石・読んだふり 『吾輩は猫である』 各論⑦ 七
時期
明治38年秋の取り付き
登場人物(登場順)
・吾輩
・細君
・主人(苦沙味)
・洗湯に来ている人々
ストーリー
・海水浴の功能について。
・吾輩が行う運動について。
・旧式運動
・新式運動(蟷螂狩り、蝉取り、松滑り、垣巡り)
・蟷螂狩りについての説明。
・蝉取りについての説明。
・垣巡りについての説明。
・人間の服装について。
・洗湯の状景描写。
・洗湯から戻って、主人宅の晩餐。
・主人が細君に吾輩の頭を撲たせて吾輩を鳴かせようとする。(間投詞と副詞の比較研究)
・普段は酒を猪口二杯飲むところを四杯飲む。
言及される歴史上の人物・事項
・リチャード・ラッセル
「1750年にドクトル・リチャード・ラッセルがブライトンの海水に飛込めば四百四病即席全快と大袈裟な広告を出したのは遅い遅いと笑ってもよろしい。」p247
・セクスピヤ、『ハムレット』
「セクスピヤも千古万古セクスピヤではつまらない。偶には股倉から『ハムレット』を見て、君こりゃ駄目だよ位にいう者がないと、文界も進歩しないだろう。」P248
・義経
「君らは義経が鵯越を落としたことだけを心得て、義経でさえ下を向いて下りるのだから猫なんぞは無論下た向きで沢山だと思うのだろう。」p254
・バルチック艦隊
「この脂たる頗る執着心の強い者で、もし一がび、毛の先へくっ付けようものなら、雷が鳴ってもバルチック艦隊が全滅しても決して離れない。」p259
・トイフェルスドレック
「そもそも衣装の歴史を繙けばー長い事だからこれはトイフェルスドレック君に譲って、繙くだけはやめてやるが、-人間は全く服装で持っているのだ。」p262
・ボー・ナッシ
「十八世紀の頃大英国バスの温泉場においてボー・ナッシが厳重な規制を制定した時などは浴場内で男女とも肩から足まで着物でかくした位である。」p262
・デカルト
「デカルトは「余は思考す、故に余は存在す」という三つ子にでも分かるような真理を考え出すのに十何年か懸ったそうだ。」p265
・岩見重太郎
「岩見重太郎が大刀を振り翳して蟒を退治るところのようだが、惜しい事にまだ竣功の期に達せんので、蟒はどもにも見えない。」p268
・和唐内
「和唐内はやっぱり清和源氏さ。」p271
・高山彦九郎
「万人に一人位は高山彦九郎が山賊を叱したようだ位に解釈してくれるかも知れん。」p273
・ハンニバル
「むかしハンニバルがアルプス山を超える時に、路の真中に当って大きな岩があって、どうしても軍隊が通行上の不便邪魔をする。」p274
・ニーチェ
「ニーチェのいわゆる超人だ。」p276
・大町桂月
「大町桂月が飲めといった。」p281
語句・表現
・無事是貴人(ぶじこれきにん):臨済宗祖・臨済義玄禅師の言葉。「求める心を捨てて安らぎの境地を心の底から実感した人こそ、老若男女・貧富地位の別を超えて本当に貴い尊ぶべき人である」の意。
・脂(やに)下がる:得意になってにやにやする。気取る。本来はきせるの雁首を上にあげてたばこを吸うこと。こうしてたばこを吸うと、雁首にたまったたばこの脂が、羅宇(らお)を通って吸い口に下がってくる。そのような動作が、いかにももったいぶって気どった態度であることから、上記の意となる。
・輓近(ばんきん):近ごろ。最近。近年。
・折助:江戸時代、武家で使われた中間(ちゅうげん)・小者(こもの)の異称。
・吉野紙:吉野 (奈良県) に産する薄葉の和紙。色が白く、宝石・貴金属などの包装や漆や油をこすのに用いられる。
・七擒七縦(しちきんしちしょう):相手を自分の思いどおりに自由自在にあしらうこと。 諸葛孔明が敵将孟獲を七度擒(とりこ)にし七度縦(はなっ)て孟獲を心から心服させたという故事から。
・八つ口:身八ツ口。女・子供物の和服の脇明き。
・黒甜郷裡(こくてんきょうり):昼寝。昼寝のまどろみの世界の内。「黒甜郷」は昼寝の夢の世界、「裡」は「中」の意。
・推参:出すぎていること。差し出がましいこと。無礼なこと。
・手を翻せば雨、手を覆せば雲:「手を翻せば雲となり手を覆せば雨となる」人情の変わりやすく頼みにならないたとえ。杜甫「貧交行」の句。掌てのひらを上に向ければ雲となり、下に向ければ雨となるほど天候の変化は急だ、の意。
・瑩徹(えいてつ):明らかで、すきとおっていること。
・十六むさし:江戸時代から明治時代にかけて遊ばれていたボードゲーム。
・歓言愉色(かんげんゆしょく): 処世術。お世辞を言い、いい顔をすること。
・石榴口:江戸時代の銭湯で浴槽の前方上部を覆うように仕切り、客がその下を腰をかがめてくぐり抜けて浴槽に入るようにした入口。湯の冷めるのを防ぐためのもの。鏡磨きにザクロの酢が必要とされたところから、「鏡要る」と「屈み入る」をかけた名。
・残喘:残り少ない命。余生。
・近所合壁(きんじょがっぺき):近くの家々。壁一つを隔てた隣近所。
・Archaiomelesidonophrunicherata:アリストパネスの喜劇『蜂』に出てくる言葉 ἀρχαῖα μελισιδωνοφρυνιχήρατα 。「シドン(フェニキアの町の名)人プリュニコスの昔の歌のように愛らしい」の意味の形容詞。
読みづらい漢字
・薨去(こうきょ)
・品隲(ひんしつ)
・仆れる(たお・れる)
・忽せ(ゆるが・せ)
・巓(いただき)
・蟒(うわばみ)
・蛇蝎(だかつ)
・孑孑(ぼうふら)
今日にも通用する内容
・「人間世界を通じて行われる愛の法則の第一条にはこうあるそうだ。-自己の利益になる間は、須らく人を愛すべし。」p258
・「西洋人は強いから無理でも馬鹿気ていても真似なければ遣り切れないのだろう。長いものには捲かれろ、強いものには折れろ、重いものには圧されろと、そうれろ尽くしでは気が利かんではないか。気が利かんでも仕方がないというなら勘弁するから、余り日本人をえらい者と思ってはいけない。」p264
面白い表現、言い換えを畳み込む表現
・「真似をする点において蝉は人間に劣らぬ位馬鹿である。」p253
・「松の幹ほど滑らないものはない。手懸りのいいものはない。足懸りのいいものはない。-換言すれば爪懸りのいいものはない。」p254
・「実業家が主人苦沙弥先生を圧倒しようとあせる如く、西行に銀製の吾輩を進呈するが如く、西郷隆盛君の銅像に勘公が糞をひるようなものである。」p257
・「丸いものが三角に積まれるのは不本意千万だろうと、窃かに小桶諸君の意を諒とした。」p261
・「よろしいといいながらひらりと身を躍らすといわゆる洗湯は鼻の先、眼の下、顔の前にぶらついている。」p261
・「かように化物どもがわれもわれもと異を衒い新を競って、遂には燕の尾にかたどった畸形まで出現したが、退いてその由来を案ずると、何も無理矢理に、出鱈目に、偶然に、漫然に持ち上がった事実では決してない。」p266
・「超人だ。ニーチェのいわゆる超人だ。魔中の大王だ。化物の棟梁だ。」p276
・「飯を食えば腹が張るに極まっている。切れば血が出るに極まっている。殺せば死ぬに極まっている。それだから打てば鳴くに極まっていると速断をやったのだろう。」p278
・「その格で行くと川へ落ちれば必ず死ぬ事になる。天麩羅を食えば必ず下痢する事になる。月給をもらえば必ず出勤する事になる。書物を読めば必ずえらくなる事になる。」p278
参考図書
『漱石全集』第一巻、第二巻 岩波書店 1978年
『吾輩は猫である』 岩波文庫
『漱石大全』Kindle版 第3版 古典教養文庫
『カラー版新国語便覧』 第一学習者 1990年
『漱石とその時代』1~3 江藤淳 著 新潮選書
『決定版 夏目漱石』 江藤淳 著 新潮文庫
『夏目漱石を読む』 吉本隆明 著 ちくま文庫
『特講 漱石の美術世界』 古田亮 著 岩波現代全書
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
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時期
明治38年秋の取り付き
登場人物(登場順)
・吾輩
・細君
・主人(苦沙味)
・洗湯に来ている人々
ストーリー
・海水浴の功能について。
・吾輩が行う運動について。
・旧式運動
・新式運動(蟷螂狩り、蝉取り、松滑り、垣巡り)
・蟷螂狩りについての説明。
・蝉取りについての説明。
・垣巡りについての説明。
・人間の服装について。
・洗湯の状景描写。
・洗湯から戻って、主人宅の晩餐。
・主人が細君に吾輩の頭を撲たせて吾輩を鳴かせようとする。(間投詞と副詞の比較研究)
・普段は酒を猪口二杯飲むところを四杯飲む。
言及される歴史上の人物・事項
・リチャード・ラッセル
「1750年にドクトル・リチャード・ラッセルがブライトンの海水に飛込めば四百四病即席全快と大袈裟な広告を出したのは遅い遅いと笑ってもよろしい。」p247
・セクスピヤ、『ハムレット』
「セクスピヤも千古万古セクスピヤではつまらない。偶には股倉から『ハムレット』を見て、君こりゃ駄目だよ位にいう者がないと、文界も進歩しないだろう。」P248
・義経
「君らは義経が鵯越を落としたことだけを心得て、義経でさえ下を向いて下りるのだから猫なんぞは無論下た向きで沢山だと思うのだろう。」p254
・バルチック艦隊
「この脂たる頗る執着心の強い者で、もし一がび、毛の先へくっ付けようものなら、雷が鳴ってもバルチック艦隊が全滅しても決して離れない。」p259
・トイフェルスドレック
「そもそも衣装の歴史を繙けばー長い事だからこれはトイフェルスドレック君に譲って、繙くだけはやめてやるが、-人間は全く服装で持っているのだ。」p262
・ボー・ナッシ
「十八世紀の頃大英国バスの温泉場においてボー・ナッシが厳重な規制を制定した時などは浴場内で男女とも肩から足まで着物でかくした位である。」p262
・デカルト
「デカルトは「余は思考す、故に余は存在す」という三つ子にでも分かるような真理を考え出すのに十何年か懸ったそうだ。」p265
・岩見重太郎
「岩見重太郎が大刀を振り翳して蟒を退治るところのようだが、惜しい事にまだ竣功の期に達せんので、蟒はどもにも見えない。」p268
・和唐内
「和唐内はやっぱり清和源氏さ。」p271
・高山彦九郎
「万人に一人位は高山彦九郎が山賊を叱したようだ位に解釈してくれるかも知れん。」p273
・ハンニバル
「むかしハンニバルがアルプス山を超える時に、路の真中に当って大きな岩があって、どうしても軍隊が通行上の不便邪魔をする。」p274
・ニーチェ
「ニーチェのいわゆる超人だ。」p276
・大町桂月
「大町桂月が飲めといった。」p281
語句・表現
・無事是貴人(ぶじこれきにん):臨済宗祖・臨済義玄禅師の言葉。「求める心を捨てて安らぎの境地を心の底から実感した人こそ、老若男女・貧富地位の別を超えて本当に貴い尊ぶべき人である」の意。
・脂(やに)下がる:得意になってにやにやする。気取る。本来はきせるの雁首を上にあげてたばこを吸うこと。こうしてたばこを吸うと、雁首にたまったたばこの脂が、羅宇(らお)を通って吸い口に下がってくる。そのような動作が、いかにももったいぶって気どった態度であることから、上記の意となる。
・輓近(ばんきん):近ごろ。最近。近年。
・折助:江戸時代、武家で使われた中間(ちゅうげん)・小者(こもの)の異称。
・吉野紙:吉野 (奈良県) に産する薄葉の和紙。色が白く、宝石・貴金属などの包装や漆や油をこすのに用いられる。
・七擒七縦(しちきんしちしょう):相手を自分の思いどおりに自由自在にあしらうこと。 諸葛孔明が敵将孟獲を七度擒(とりこ)にし七度縦(はなっ)て孟獲を心から心服させたという故事から。
・八つ口:身八ツ口。女・子供物の和服の脇明き。
・黒甜郷裡(こくてんきょうり):昼寝。昼寝のまどろみの世界の内。「黒甜郷」は昼寝の夢の世界、「裡」は「中」の意。
・推参:出すぎていること。差し出がましいこと。無礼なこと。
・手を翻せば雨、手を覆せば雲:「手を翻せば雲となり手を覆せば雨となる」人情の変わりやすく頼みにならないたとえ。杜甫「貧交行」の句。掌てのひらを上に向ければ雲となり、下に向ければ雨となるほど天候の変化は急だ、の意。
・瑩徹(えいてつ):明らかで、すきとおっていること。
・十六むさし:江戸時代から明治時代にかけて遊ばれていたボードゲーム。
・歓言愉色(かんげんゆしょく): 処世術。お世辞を言い、いい顔をすること。
・石榴口:江戸時代の銭湯で浴槽の前方上部を覆うように仕切り、客がその下を腰をかがめてくぐり抜けて浴槽に入るようにした入口。湯の冷めるのを防ぐためのもの。鏡磨きにザクロの酢が必要とされたところから、「鏡要る」と「屈み入る」をかけた名。
・残喘:残り少ない命。余生。
・近所合壁(きんじょがっぺき):近くの家々。壁一つを隔てた隣近所。
・Archaiomelesidonophrunicherata:アリストパネスの喜劇『蜂』に出てくる言葉 ἀρχαῖα μελισιδωνοφρυνιχήρατα 。「シドン(フェニキアの町の名)人プリュニコスの昔の歌のように愛らしい」の意味の形容詞。
読みづらい漢字
・薨去(こうきょ)
・品隲(ひんしつ)
・仆れる(たお・れる)
・忽せ(ゆるが・せ)
・巓(いただき)
・蟒(うわばみ)
・蛇蝎(だかつ)
・孑孑(ぼうふら)
今日にも通用する内容
・「人間世界を通じて行われる愛の法則の第一条にはこうあるそうだ。-自己の利益になる間は、須らく人を愛すべし。」p258
・「西洋人は強いから無理でも馬鹿気ていても真似なければ遣り切れないのだろう。長いものには捲かれろ、強いものには折れろ、重いものには圧されろと、そうれろ尽くしでは気が利かんではないか。気が利かんでも仕方がないというなら勘弁するから、余り日本人をえらい者と思ってはいけない。」p264
面白い表現、言い換えを畳み込む表現
・「真似をする点において蝉は人間に劣らぬ位馬鹿である。」p253
・「松の幹ほど滑らないものはない。手懸りのいいものはない。足懸りのいいものはない。-換言すれば爪懸りのいいものはない。」p254
・「実業家が主人苦沙弥先生を圧倒しようとあせる如く、西行に銀製の吾輩を進呈するが如く、西郷隆盛君の銅像に勘公が糞をひるようなものである。」p257
・「丸いものが三角に積まれるのは不本意千万だろうと、窃かに小桶諸君の意を諒とした。」p261
・「よろしいといいながらひらりと身を躍らすといわゆる洗湯は鼻の先、眼の下、顔の前にぶらついている。」p261
・「かように化物どもがわれもわれもと異を衒い新を競って、遂には燕の尾にかたどった畸形まで出現したが、退いてその由来を案ずると、何も無理矢理に、出鱈目に、偶然に、漫然に持ち上がった事実では決してない。」p266
・「超人だ。ニーチェのいわゆる超人だ。魔中の大王だ。化物の棟梁だ。」p276
・「飯を食えば腹が張るに極まっている。切れば血が出るに極まっている。殺せば死ぬに極まっている。それだから打てば鳴くに極まっていると速断をやったのだろう。」p278
・「その格で行くと川へ落ちれば必ず死ぬ事になる。天麩羅を食えば必ず下痢する事になる。月給をもらえば必ず出勤する事になる。書物を読めば必ずえらくなる事になる。」p278
参考図書
『漱石全集』第一巻、第二巻 岩波書店 1978年
『吾輩は猫である』 岩波文庫
『漱石大全』Kindle版 第3版 古典教養文庫
『カラー版新国語便覧』 第一学習者 1990年
『漱石とその時代』1~3 江藤淳 著 新潮選書
『決定版 夏目漱石』 江藤淳 著 新潮文庫
『夏目漱石を読む』 吉本隆明 著 ちくま文庫
『特講 漱石の美術世界』 古田亮 著 岩波現代全書
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
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