漱石・読んだふり 「吾輩は猫である」 各論② 二
時期
明治38年正月
登場人物(登場順)
・吾輩
・主人:苦沙味先生
・下女
・寒月:主人の旧門下生
・御三(おさん 苦沙味先生の家の下女)
・二人の小供
・細君(苦沙味先生の)
・三毛子(新道の二弦琴の御師匠さんに飼われている)
・新道の二弦琴の御師匠さん
・車屋の黒
・黒のうちの神さん
・越智東風(寒月の友人)
・迷亭
・西洋料理屋のボイ
・新道の二弦琴の御師匠さんの下女
・某博士の夫人
・甘木先生(医者)
ストーリー
・主人に届いた年始状。(吾輩を主題としている)
・寒月が主人を訪れる。(寒月の近況報告)
・寒月訪問の翌日の朝食情景。
・主人の日記。(前日寒月との外出の内容、胃弱にいいと聞いた諸方法を試した内容
・バルザックの文章の贅沢の逸話。(『Z.マルカス』)
・吾輩が雑煮の餅を食って踊りを踊った話。
・三毛子を訪問する。
・車屋の黒と会う。
・越智東風が主人を訪れる。(迷亭と西洋料理店に行った話 トチメンボー、朗読会の話)
・迷亭の年始状の内容。
・4〜5日後、三毛子を訪問するも病気で寝ていることを知る。
・迷亭、遅れて寒月が主人を訪れる。(主人の翻訳、3人の不思議な話(首懸けの松、吾妻橋、摂津大掾)
・三毛子が死んだことを知る。
言及される歴史上の人物・事項
・桃川如燕
・グレー
「まず桃川如燕以後の猫か、グレーの金魚を偸んだ猫位の資格は充分あると思う」(p31岩波文庫 以下同様)
・エピクテタス
「主人はエピクテタスとかいう人の本を披いて見ておった。」(p33)
・安井息軒
「安井息軒も大変この按摩術を愛していた。」(p35)
・坂本龍馬
「坂本龍馬のような豪傑でも時々は治療をうけたというから、早速上根岸まで出掛けて揉まして見た。」(p35)
・カーライル
「「君の説は面白いが、あのカーライルは胃弱だったぜ」とあたかもカーライルが胃弱だから自分の胃弱も名誉であるといったような、見当違いの挨拶をした。」(p36)
・バルザック
「主人の話によると仏蘭西にバルザックという小説家があったそうだ。」(p37)
・天璋院
「何でも天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行った先きの御っかさんの甥の娘なんだって」(p44)
・白楽天の『琵琶行』
「古人の作というと白楽天の『琵琶行』のようなものででもあるんですか。」(p51)
・蕪村の『春風馬堤曲』
「蕪村の『春風馬堤曲』の種類ですか」(p51)
・近松
「先達ては近松の心中物をやりました」(p52)
・レスター伯
・エリザベス女皇
・ケニルウォース
「レスター伯がエリザベス女皇をケニルウォースに招待致し候節も慥か孔雀を使用致し候よう記憶致候。」(p57)
・レンブラント
「有名なるレンブラントが画き候饗宴の図にも孔雀が尾を広げたるまま卓上に横たわりおり候・・・」(p57)
・ギボン
・モンセン
・スミス
「よってこの間中よりギボン。モンセン。スミス等諸家の著述を渉猟致しおり候えどもいまだに発見の端緒をも見出し得ざるは残念の至に存候。」(p59)
・山陽
「昔しある人が山陽に、先生近頃名文は御座らぬかといったら、山陽が馬子の書いた借金の催促状を示して近来の名文は先ずこれでしょうといったという話があるから、君の審美眼も存外慥かかも知れん。」(p63)
・大燈国師
「主人は禅坊主が大燈国師の遺誡を読むような声を出して読み始める。」(p63)
・『金色夜叉』
「それから僕が今度も近松の世話物をやるつもりかいと聞くと、いえこの次はずっと新しい者を撰んで『金色夜叉』にしましたというから、君にゃ何の役が当ってるかと聞いたら私は御宮ですといったのさ。」(p66)
・バリー・ペーン
「昼飯を食ってストーブの前でバリー・ペーンの滑稽物を読んでいるところへ静岡の母から手紙が来たから見ると、年寄だけにいつまでも僕を小供のように思ってね。」(p67)
・ゼームス
「ゼームスなどにいわせると副意識下の幽冥界と僕が存在している現実界が一種の因果法によって互いに感応したんだろう。」(p70)
・摂津大掾
「細君が御歳暮の代わりに摂津大掾を聞かしてくれろというから、連れて行ってやらん事もないが今日の語り物な何だと聞いたら、細君が新聞を参考して鰻谷だというのさ。」(p74)
・左甚五郎
・スタンラン
「今に左甚五郎が出て来て、吾輩の肖像を楼門の柱に刻み、日本のスタンランが好んで吾輩の似顔をカンヴァスの上に描くようになったら、彼ら鈍瞎漢は始めて自己の不明を恥ずるであろう。」(p83)
語句・表現
・『三世相』:過去、現在、未来 (三世) の因果吉凶を仏教、陰陽五行の説などと各人の生年月日、人相などから解明できるとした考え。唐の袁天綱の創始にかかるといわれる。日本では江戸時代、この考えを日常生活に必要な十干十二支、上弦下弦の月、日食月食、夢判じなど 208項目について百科全書的に絵入りで解説した『三世相』という本が流行した。
・べんべら者:薄っぺらの、また安っぽい絹の衣服。
・喜多床:1871年開業の、連ねる日本で一番古い理髪店。夏目漱石も得意客の一人だった。現在の東京大学の正門前に開業。現在は渋谷で営業。
・行屎走尿:便所で用を足す意。転じて、ありふれた日常生活のたとえ。
・尽未来際:仏教用語。未来の果てに至るまで。未来永劫。誓いを立てるときなどに、「永久に」の意で副詞的に用いる。
・驀地:急に起こるさま。まっしぐらに進むさま。
・天祐:思いがけない幸運、天の助けのこと。天佑神助ともいう。
・狂瀾を既倒に何とかする:「狂瀾を既倒に廻らす」のこと。韓愈の「進学解」の「障二百川一而東レ之、廻二狂瀾於既倒一」による。崩れかけた大波をもと来た方へ押し返す。形勢がすっかり悪くなったのを、再びもとに返すたとえ。
・欣羨:非常にうらやましがること。
・建仁寺(垣):竹垣の一つ。四つ割竹を垂直に皮を外側にしてすきまなく並べ、竹の押し縁を水平に取り付け、しゅろ縄で結んだもの。建仁寺で初めて用いた形式といわれる。
・吹い子の向こう面:他人を罵る言葉。由来は不明。
・天明調:安永・天明期に、蕉風への復帰を唱えて起こった俳風。与謝蕪村・加藤暁台・三浦樗良・高桑闌更・加舎白雄・高井几董などが主たる俳人。
・万葉調:万葉集の歌の特色をなす調べ。一般には表現,内容と関連づけて論じられることが多い。おおむね素朴、雄大、重厚、明朗、直截などの語をもって説明される。五七調を主とし、短歌では二句切れ・四句切れが多い。万葉調歌人として鎌倉時代の源実朝、江戸時代の賀茂真淵、村田春海、良寛らがあり、明治になってからは正岡子規が万葉調の復活を唱え、伊藤左千夫、島木赤彦、斎藤茂吉ら『アララギ』派の歌人が万葉調の歌をつくり、歌壇の一大勢力となった。
・日本派:正岡子規を中心とする純客観的写生主義を唱道した俳句の一流派。新聞「日本」の俳句欄を発表機関としたため、こう呼ばれる。河東碧梧桐・高浜虚子・内藤鳴雪・夏目漱石らが主な俳人。子規没後は碧梧桐が選者となったため、「ホトトギス」による虚子一派に対して、碧梧桐を中心とする一派を呼ぶ。
・橡面坊(安藤橡面坊 1869〜1914):明治時代の俳人。俳句ははじめ高浜虚子選の『国民新聞』に投句、のち正岡子規選の『日本』紙に投句。日本派風の温厚な写生句を作った 。子規が没してのちは河東碧梧桐選の『日本』に投句する。
・拝趨:出向くことをへりくだっていう語。急ぎおうかがいすること。参上。
・葉蘭:ユリ科の常緑多年草で、巨大な葉を地表に立てる植物。日本の暖地に観賞用および薬用として古くから栽培されている。長い地下茎をはわせ、長楕円形で長柄をもつ大きな葉を多数つける。
・中間:江戸時代、武士に仕えて雑務に従った者。
・雲井:きざみタバコの一銘柄。専売制度以前にあったもので禁裏御用となったところからの名といわれる。
・行徳の俎:馬鹿で人擦れしていること。江戸時代、千葉県行徳町では馬鹿貝がたくさん獲れ、ここの俎は馬鹿貝ですれているということからできた言葉。
・市が栄えた:「一期栄えた」の転じたものといわれる。 御伽おとぎ話・昔話などの最後につける言葉。「一生涯幸せに繁栄した」「めでたし、めでたし」の意。
・永日:いずれ日ながの折にゆっくり会おうの意から、別れのあいさつや手紙の結びに用いる語。
・面晤:面会すること。
・洒掃薪水:家事仕事のこと。「洒掃」は掃除、「薪水」は炊事のこと。水をまいて箒で掃き掃除をして、薪を集め、水を汲んで炊事をするという意味から。
・堵物:金銭。「阿堵物」の略。
・many a slip 'twixt the cup and the lip:There's many a slip twixt the cup and the lip. 「茶わんを口に持っていくまでのわずかな間にもいくらでもしくじりはある。」人間いつ死ぬかわからないの意か。
現代でも当てはまる言説
・「人間というものは時間を潰すために強いて口を運動させて、可笑しくもない事を笑ったり、面白くもない事を嬉しがったりする外に能もない者だと思った。」(p79)
・「要するに主人も寒月も迷亭も太平の逸民で、彼らは糸瓜の如く風に吹かれて超然と澄し切っているようなものの、その実はやはり娑婆気もあり慾気もある。競争の念、勝とう勝とうの心は彼らが日常の談笑中にもちらちらとほのめいて、一歩進めば彼らが平常罵倒している俗骨どもと一つ穴の動物になるのは猫より見て気の毒の至りである。」(p79)
読みづらい漢字
・認め(したた・め)
・紀念(かたみ)
・堆く(うずたか・く)
・爛れ(ただ・れ)
・慥かに(たし・かに)
・天鵞毛(ビロウド)
・顋(あご)
・仮色(こわいろ)
・凋む(しぼ・む)
参考図書
『漱石全集』第一巻、第二巻 岩波書店 1978年
『吾輩は猫である』 岩波文庫
『漱石大全』Kindle版 第3版 古典教養文庫
『カラー版新国語便覧』 第一学習者 1990年
『漱石とその時代』1~3 江藤淳 著 新潮選書
『決定版 夏目漱石』 江藤淳 著 新潮文庫
『夏目漱石を読む』 吉本隆明 著 ちくま文庫
『特講 漱石の美術世界』 古田亮 著 岩波現代全書
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
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