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対訳『古事記伝』 110

本居宣長
03 /26 2023
546.此ノ格他ノ音にも多し、

訳:こういった用法は、他の音でもよく見られる。

 
547.なほ書紀の假字、今ノ本、字を誤り讀(ヨミ)を誤れる多し、

訳:ただ『日本書紀』の仮名は、現行本では誤った字を用いたり誤った読みをしているものが多い。


548.委くは別に論ひてむ、】

訳:詳しくは別に論じるつもりである。】
 

549.然るに書紀は、漢音呉音をまじへ用ひ、又一字を三音四音にも、通はし用ひたる故に、いとまぎらはしくして、讀(ヨミ)を誤ること常多きに、此記は、呉音をのみ取て、一ツも漢音を取らず、

訳:しかし『日本書紀』は漢音と呉音を混用しており、又一つの字を三つも四つもの音に通用させているので、非常にまぎらわしく、読みを誤っていることがしばしばであるが、この『古事記』は呉音だけを採用し、漢音をひとつも用いていない。


550.【帝をテに、禮をレに用るも、漢音のテイレイにはあらず、呉音のタイライなり、

訳:【帝を「テ」とし、禮を「レ」に用いるのも、漢音の「テイ」、「レイ」でなく、呉音の「タイ」、「ライ」によるのである。




参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
『日本書紀上・下』 井上光貞監訳 2020年 電子書籍版



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雲の筏:http://kumoi1.web.fc2.com/CCP057.html


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対訳『古事記伝』 109

本居宣長
03 /11 2023
541.【訓を取ルとは、木止三女井(キトミメヰ)の類なり、

訳:【訓を用いるというのは、木(き)、止(と)、三(み)、女(め)、井(ゐ)のような類である。

 
542.此記と書紀には、かかるたぐひの假字あることなし、

訳:『古事記』と『日本書紀』には、そうした仮名の用法は見られない。


543.書紀允恭ノ御巻ノ歌に、迹津ノ二字あるは、共に寫し誤れるものなり、

訳:『日本書紀』の允恭の巻の歌に「迹」、「津」のニ字の例があるが、共に写し誤ったものである。
 


544.又苫ノ字を多く用ひたる、是も苔を誤れるなり、

訳:又「苫」の字を多く用いているのも、「苔」を写し誤ったものである。


545.こはタイの音の字なるを、トに用ひたる例は、廼(ナイ)をノに、廼(ダイ)をドに、耐(ダイ)をドに用ひたると同じ、

訳:ここは「タイ」の音を「ト」に使ったのであり、その例は「廼(ナイ)」を「ノ」、「迺(ダイ)」を「ド」、「耐(ダイ)」を「ド」に用いたのと同じである。




参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
『日本書紀上・下』 井上光貞監訳 2020年 電子書籍版



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対訳『古事記伝』 108

本居宣長
02 /25 2023
536.其ノ中に萬葉の假字は、音訓まじはれるを、

訳:その中で『万葉集』の仮名は、音訓が混在しているが、

 
537.【但し萬葉の書法(カキザマ)は、まさしき假字の例には云ヒがたき事あり、

訳:【但し『万葉集』の書き方は、本当の仮字の例とは言い難い点がある。


538.なほ種々(クサグサ)あやしき書(カキ)ざま多ければなり、】

訳:まだいろいろと不思議なな書き方が多いからである。】
 


539.此記と書紀とは、音のみを取リて、訓を用ひたるは一ツもなし、

訳:『古事記』と『日本書紀』とは、音だけを取って、訓を用いたところが一つもない。


540.これぞ正(マサ)しき假字なりける、

訳:これこそ正しく仮名である。




参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
『日本書紀上・下』 井上光貞監訳 2020年 電子書籍版



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対訳『古事記伝』 107

本居宣長
02 /11 2023
531.然れども又、全くこれを分(ワカ)たず、淆(マジ)へ用ひたるものにはあらず、

訳:しかし又、清濁を全く分けず、混用しているわけではない。

 
532.凡ては正しく分れたれば、かの後の全く混(マジ)へ用ひたる書どものなみにはあらず、

訳:およそは正しく書き分けられており、後代の完全に混同して用いている書物などとは比較にならない。
 

533.さて又萬葉は、此記に比ぶれば、違へるところもやや多けれども、書紀に比ぶれば、違ひはいと少くして、すべて清濁正しく用ひ分(ワケ)たるさまなり、

訳:さて『万葉集』は、『古事記』に比べると間違いも多いけれども、『日本書紀』に比べれば間違いはたいへん少なく、すべて清濁が正しく書き分けられているようである。


534.これらの差別(ワキタメ)は、その用ひたる假字どもを、一ツ毎(ゴト)にあまねく考へ合せて、知ルべきことなり、

訳:これらの使い分けは、その用いられた仮名を、一つ一つすべて照らし合わせ考察して分かることである。


535.ただ大(オホ)よそに見ては、くはしきことは、知リがたかるべきものぞ、】

訳:ただざっと見ただけでは、詳しいことは、知り難いものなのである。】



参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
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対訳『古事記伝』 106

本居宣長
01 /28 2023
526.されど此記には、殊に此ノ違(タガ)ひはいといとまれにして、惣(スベ)ての中に、わづかに二十ばかりならでは見えざる、

訳:しかしこの『古事記』では、特にこの間違いは非常にまれであって、全体でもわずかに二十個ほどしか見えない。

 
527.其中に十ばかりは、婆ノ字なるを、その八ツは、一本には波と作(ア)れば、のこりニツ三ツの婆も、もとは波なりしことしられたり、

訳:その中で十個ほどは「婆」の字であり、そのうち8個は、ある本では「波」と書いているので、残りの二、三の「婆」も、元は「波」だっただろうと知れる。
 

528.然れば、記中まさしく清濁の違(タガ)へりと見ゆるは、ただ十ばかりには過ずして、其ノ餘(ホカ)幾百(イクモモチ)かある清濁は、みな正しく分れたるものを、いといとまれなる方になづみて、なべてを疑ふべきことかは、

訳:ということは、『古事記』の中で清濁の明らかに間違っていると思えるのは、ただの十個を越えることはなく、その他数百もある清濁はすべて正しく書かれているのだから、数少ない誤りを取り上げて、すべてを疑うべきであろうか。


529.さて書紀は、此記に比ぶれば、清濁の違へることいと多し、

訳:ところが『日本書紀』は、『古事記』に比べて、清濁の誤りがたいへん多い。


530.こはいといふかしきことなり、

訳:これはたいそう疑わしいことである。



参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
『日本書紀上・下』 井上光貞監訳 2020年 電子書籍版



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Radiology2003

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