対訳『古事記伝』 127
本居宣長
631.彼ノ浄御原ノ天皇は、撰録(フミシルス)に及び賜はで、崩坐(カミアガリマシ)しかば、かの舊辭は、阿禮が口に留(トドマ)れりしを、此ノ平城(ナラ)の大御世に至て、事遂行(コトトゲオコナ)はせ賜へるなり、
訳:かの浄御原の天皇は、撰録が完成する前にご崩御になられたので、例の旧辞は阿禮の口に留まったままになっていたのを、この平城の御世(元明天皇)に至って、撰録を完成おさせになったのである。
632.故レ安萬侶ノ朝臣の撰録(エラビシル)されたるさまも、彼ノ天皇たちの大御志のまにまに、旨と古語を厳重(オモ)くせられたるほど灼然(イチジロ)くて、高天原の註に、訓テ高ノ下ノ天ヲ云阿麻としるし、天比登都柱(アメヒトツバシラ)の註には、訓ムコト天ヲ如シ天ノなどしるし、或は讀聲(ヨムコエ)の上下(アガリサガリ)をさへに、委曲(ツバラカ)に示し諭しおかれたるをや、
訳:そのため安萬侶朝臣の撰録の書きぶりも、その天皇たちの大御志に従って、古言を重視したことが顕著であり、高天原の註に、高の字の下の天の字を「あま」と記述し、天比登都柱の註に「天の字は天と読む」と書き、あるいは読む声の抑揚も詳細に示したのであった。
633.如此(カカ)有レば今是レを訓マむとするにも、又上ノ件の意をよく得て、一字(ヒトモジ)一言(ヒトコト)といへども、みだりにはすまじき物ぞ、
訳:そうであるので、今『古事記』を読もうとする場合も、上記の意図をよく理解し、一字一句といえどもおろそかに扱ってはならない。
634.さて然つつしみ厳重(オモ)くするにつきては、漢籍(カラブミ)また後ノ世の書をよむとは異にして、いとたやすからぬわざなり、
訳:しかしそのように厳格に扱おうとすると、漢籍や後代の書を読むのとは違って、それほど容易なことではない。
635.いで其ノ由をいはむ、
訳:その理由を述べよう。
参考書籍
『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
『日本書紀上・下』 井上光貞監訳 2020年 電子書籍版
参考サイト
雲の筏:http://kumoi1.web.fc2.com/CCP057.html
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訳:かの浄御原の天皇は、撰録が完成する前にご崩御になられたので、例の旧辞は阿禮の口に留まったままになっていたのを、この平城の御世(元明天皇)に至って、撰録を完成おさせになったのである。
632.故レ安萬侶ノ朝臣の撰録(エラビシル)されたるさまも、彼ノ天皇たちの大御志のまにまに、旨と古語を厳重(オモ)くせられたるほど灼然(イチジロ)くて、高天原の註に、訓テ高ノ下ノ天ヲ云阿麻としるし、天比登都柱(アメヒトツバシラ)の註には、訓ムコト天ヲ如シ天ノなどしるし、或は讀聲(ヨムコエ)の上下(アガリサガリ)をさへに、委曲(ツバラカ)に示し諭しおかれたるをや、
訳:そのため安萬侶朝臣の撰録の書きぶりも、その天皇たちの大御志に従って、古言を重視したことが顕著であり、高天原の註に、高の字の下の天の字を「あま」と記述し、天比登都柱の註に「天の字は天と読む」と書き、あるいは読む声の抑揚も詳細に示したのであった。
633.如此(カカ)有レば今是レを訓マむとするにも、又上ノ件の意をよく得て、一字(ヒトモジ)一言(ヒトコト)といへども、みだりにはすまじき物ぞ、
訳:そうであるので、今『古事記』を読もうとする場合も、上記の意図をよく理解し、一字一句といえどもおろそかに扱ってはならない。
634.さて然つつしみ厳重(オモ)くするにつきては、漢籍(カラブミ)また後ノ世の書をよむとは異にして、いとたやすからぬわざなり、
訳:しかしそのように厳格に扱おうとすると、漢籍や後代の書を読むのとは違って、それほど容易なことではない。
635.いで其ノ由をいはむ、
訳:その理由を述べよう。
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『本居宣長全集』第九巻 筑摩書房 1966年
『岩波古語辞典』 岩波書店 1974年
『古事記注釈 第一巻』 西郷信綱 著 ちくま学芸文庫 2005年
『本居宣長『古事記伝』を読む』Ⅰ~Ⅳ 2010年
『新版古事記』 中村啓信 訳注 KADOKAWA 2014年 電子書籍版
『改訂増補 古文解釈のため国文法入門』 松尾聰 著 2019年
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