fc2ブログ

漱石・読んだふり 『三四郎』五

漱石
09 /16 2023
漱石・読んだふり 『三四郎』五

登場人物(登場順)
・よし子

・三四郎

・野々宮

・美禰子

・広田先生

・与次郎


ストーリー
・よし子の家の縁側での三四郎とよし子の話(よし子が描いている水彩について、美禰子の兄たちと広田先生の関係について、よし子が兄野々宮をどう思っているか)

・三四郎が家に帰ると美禰子から菊人形見物の誘いのはがきが届いており、翌日出かける

・三四郎、美禰子、野々宮、よし子、広田先生の五人で菊人形見物に出かける

・途中で乞食と迷子を見かけ、各人が考えを述べる

・菊人形見物で美禰子が気分が悪くなり、三四郎が休める川沿いの野原へ連れて行く

・休んでいる間の美禰子との会話で美禰子が「迷子」の英訳を「ストレイ・シープ」と言う


語句
・談柄: (僧侶などが談話の際に手にとる払子の意から) 話の種。話題。話柄。


四人の乞食に対する批評
・「広田先生が急に振り向いて三四郎に聞いた。
「君あの乞食に銭をやりましたか」
「いいえ」と三四郎があとを見ると、例の乞食は、白い額の下で両手を合わせて、相変らず大きな声を出している。
「やる気にならないわね」とよし子がすぐに言った。
「なぜ」とよし子の兄は妹を見た。たしなめるほどに強い言葉でもなかった。野々宮の顔つきはむしろ冷静である。
「ああしじゅうせっついていちゃ、せっつきばえがしないからだめですよ」と美禰子が評した。
「いえ場所が悪いからだ」と今度は広田先生が言った。「あまり人通りが多すぎるからいけない。山の上の寂しい所で、ああいう男に会ったら、だれでもやる気になるんだよ」
「その代り一日待っていても、だれも通らないかもしれない」と野々宮はくすくす笑い出した。


迷子を見た時の四人の考え
「「いまに巡査が始末をつけるにきまっているから、みんな責任をのがれるんだね」と広田先生が説明した。
「わたしのそばまで来れば交番まで送ってやるわ」とよし子が言う。
「じゃ、追っかけて行って、連れて行くがいい」と兄が注意した。
「追っかけるのはいや」
「なぜ」
「なぜって――こんなにおおぜいの人がいるんですもの。私にかぎったことはないわ」
「やっぱり責任をのがれるんだ」と広田が言う。
「やっぱり場所が悪いんだ」と野々宮が言う。男は二人で笑った。団子坂の上まで来ると、交番の前へ人が黒山のようにたかっている。迷子はとうとう巡査の手に渡ったのである。」


風景描写
・「向こうは広い畑で、畑の先が森で森の上が空になる。空の色がだんだん変ってくる。ただ単調に澄んでいたもののうちに、色が幾通りもできてきた。透き通る藍の地が消えるように次第に薄くなる。その上に白い雲が鈍く重なりかかる。重なったものが溶けて流れ出す。どこで地が尽きて、どこで雲が始まるかわからないほどにものうい上を、心持ち黄な色がふうと一面にかかっている。」


誰にもあること
・「三四郎はこういう場合になると挨拶あいさつに困る男である。咄嗟の機が過ぎて、頭が冷やかに働きだした時、過去を顧みて、ああ言えばよかった、こうすればよかったと後悔する。といって、この後悔を予期して、むりに応急の返事を、さもしぜんらしく得意に吐き散らすほどに軽薄ではなかった。だからただ黙っている。そうして黙っていることがいかにも半間であると自覚している。」



参考図書
『漱石全集』第七巻 岩波書店 1978年


日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ランキング
スポンサーサイト



漱石・読んだふり 『三四郎』四

漱石
08 /31 2023
漱石・読んだふり 『三四郎』四

登場人物(登場順)
・三四郎

・佐々木与次郎

・広田先生

・里見美禰子(池の女)

・車屋

・下女

・野々宮さん


ストーリー
・三四郎は大学の講義をつまらなく思い始め、東京の街に出歩くようになる

・街歩きをしている際、広田先生と同行する与次郎に会う

・広田先生が部屋を探していると聞き、三四郎が知っている貸家を三人で見に行く

・翌日三四郎が学校から帰宅すると与次郎が貸家の当てを聞きに訪ねてくる

・三四郎は与次郎から広田先生の素性(独身、十年以上英語の教師を続けているなど)

・与次郎が帰った後、三四郎は母からの手紙を読む

・三四郎の三つの世界について

・翌日見つけた貸家の掃除を明日するするよう、与次郎に頼まれる

・三四郎が貸家にいると池の女がやってきて、一緒に掃除をする

・与次郎が引越し荷物を持ってきて、3人で荷物を部屋に入れる

・美禰子が広田先生の本の中に人魚を描いた画帖を見つけ、三四郎に見せる

・広田先生が貸家に到着する

・4人で美禰子が準備したサンドイッチを食べる

・野々宮さんも貸家にやって来る

・野々宮さんが帰る際、美禰子が追って話をするのを三四郎が見やる


語句
・閨秀作家:女性の作家のこと。 「閨」は、上品な女性。 「閨秀」は、文芸や学術にすぐれた女性。


歴史的人物・事項
・シュレーゲル
「その晩取って返して、図書館でロマンチック・アイロニーという句を調べてみたら、ドイツのシュレーゲルが唱えだした言葉で、なんでも天才というものは、目的も努力もなく、終日ぶらぶらぶらついていなくってはだめだという説だと書いてあった。」

・アフラ・ベーン
「試しにアフラ・ベーンという人の小説を借りてみたが、やっぱりだれか読んだあとがあるので、読書範囲の際限が知りたくなったから聞いてみたと言う。」


美禰子の目つきを形容する表現
・「ヴォラプチュアス! 池の女のこの時の目つきを形容するにはこれよりほかに言葉がない。何か訴えている。艶なるあるものを訴えている。そうしてまさしく官能に訴えている。けれども官能の骨をとおして髄に徹する訴え方である。甘いものに堪えうる程度をこえて、激しい刺激と変ずる訴え方である。甘いといわんよりは苦痛である。卑しくこびるのとはむろん違う。見られるもののほうがぜひこびたくなるほどに残酷な目つきである。」


三四郎の三つの世界
・「一つは遠くにある。与次郎のいわゆる明治十五年以前の香かがする。すべてが平穏である代りにすべてが寝ぼけている。もっとも帰るに世話はいらない。もどろうとすれば、すぐにもどれる。ただいざとならない以上はもどる気がしない。いわば立退場のようなものである。」
・「広田先生はこの内にいる。野々宮君もこの内にいる。三四郎はこの内の空気をほぼ解しえた所にいる。」
・「第三の世界はさんとして春のごとくうごいている。電燈がある。銀匙がある。歓声がある。笑語がある。泡立つシャンパンの杯がある。そうしてすべての上の冠として美しい女性がある。」


現代にも通じる表現
・「先生の説によると、こんなに古い燈台が、まだ残っているそばに、偕行社という新式の煉瓦作りができた。二つ並べて見るとじつにばかげている。けれどもだれも気がつかない、平気でいる。これが日本の社会を代表しているんだと言う。」



参考図書
『漱石全集』第七巻 岩波書店 1978年


日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ランキング

漱石・読んだふり 『三四郎』三

漱石
08 /17 2023
漱石・読んだふり 『三四郎』三

登場人物(登場順)
・三四郎

・佐々木与次郎

・野々宮君

・野々宮君の妹

・野々宮君の母

・池で会った女


ストーリー
・三四郎が通う大学の建物や風景描写

・大学の講義が始まった日、講義で佐々木与次郎と知り合う

・母に手紙を書く

・翌日佐々木与次郎に昼食に誘われ、淀見軒でライスカレーを食べる

・三四郎は週四十時間講義を受けるが、物足りなさを感じる

・物足りなさを佐々木与次郎に話すと、与次郎は三四郎を連れて電車に乗り回し、寄席に連れて行く

・翌日から与次郎の勧めで図書館に行き始める

・翌日休憩で入った店で上京の節汽車の中で水蜜桃をたくさん食った人を見かける

・与次郎に野々宮君が三四郎を探していたこと、野々宮君は与次郎の寄寓している広田先生のもとの弟子であることを聞かされる

・翌日野々宮の家を訪ねる

・野々宮君の妹から来てほしいとの電報が来たため、野々宮君は妹の入院している病院へ行き、怖がる女中のため代わりに三四郎が野々宮君の家に一泊することになる

・その夜家の裏手で女が列車に飛び込み自殺をし、その現場を三四郎は見に行く

・翌日野々宮君が家に戻り、帰る三四郎に病院の妹に袷を届けるよう頼まれる

・届けものの帰り、病院の廊下で池で会った女に、野々宮君の妹の病室の場所を聞かれる


語句
・岑々(しんしん)たる:ひどく頭が痛むさま


歴史的人物・事項
・ナポレオン三世
「それはナポレオン三世時代の老馬であったそうだ。」

・小泉八雲
「その時ポンチ絵の男は、死んだ小泉八雲先生は教員控室へはいるのがきらいで講義がすむといつでもこの周囲をぐるぐる回って歩いたんだと、あたかも小泉先生に教わったようなことを言った。」

・円遊、小さん
「円遊もうまい。しかし小さんとは趣が違っている。」

・ヘーゲル
「ヘーゲルのベルリン大学に哲学を講じたる時、ヘーゲルに毫も哲学を売るの意なし。」


池で会った女の風貌描写
・「二重瞼の切長のおちついた恰好である。目立って黒い眉毛の下に生きている。同時にきれいな歯があらわれた。この歯とこの顔色とは三四郎にとって忘るべからざる対照であった。きょうは白いものを薄く塗っている。けれども本来の地を隠すほどに無趣味ではなかった。こまやかな肉が、ほどよく色づいて、強い日光にめげないように見える上を、きわめて薄く粉が吹いている。てらてら照(ひか)る顔ではない。肉は頬といわず顎といわずきちりと締まっている。骨の上に余ったものはたんとないくらいである。それでいて、顔全体が柔かい。肉が柔かいのではない骨そのものが柔かいように思われる。奥行きの長い感じを起こさせる顔である。」


佐々木与次郎のノートに記してあった俳句
・「久方の雲井の空の子規」



参考図書
『漱石全集』第六巻 岩波書店 1978年


日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ランキング

漱石・読んだふり 『三四郎』ニ

漱石
08 /03 2023
漱石・読んだふり 『三四郎』ニ

登場人物(登場順)
・三四郎

・野々宮宗八

・女2人


ストーリー
・三四郎が東京に来て驚いたことについて

・理科大学の野々宮宗八に挨拶に行く

・大学の池を見て寂しさを感じる

・池の辺りにいると筋向いに2人の女(一人は看護師)が現れ、看護師でない方の女の服装を美しいと感じる

・2人の女が池沿いに歩いてきて三四郎とすれ違う

・野々宮君が池まで来て三四郎を誘い一緒に西洋料理を食べる

・野々宮君と別れた後三四郎は池であった女の顔の色ばかり考え、「どうしてもあれでなくってはだめだ」と思う

  
語句
・洞ヶ峠:有利な方につこうと形勢をうかがうこと。日和見。


歴史的人物・事項
・ラスキン
「「――君ラスキンを読みましたか」」


繰り返す表現
・「三四郎はぼんやりしていた。やがて、小さな声で「矛盾だ」と言った。大学の空気とあの女が矛盾なのだか、あの色彩とあの目つきが矛盾なのだか、あの女を見て汽車の女を思い出したのが矛盾なのだか、それとも未来に対する自分の方針が二道に矛盾しているのか、または非常にうれしいものに対して恐れをいだくところが矛盾しているのか、――このいなか出の青年には、すべてわからなかった。ただなんだか矛盾であった。」


現在にも通じる表現
・「明治の思想は西洋の歴史にあらわれた三百年の活動を四十年で繰り返している。」

・「「七年もあると、人間はたいていの事ができる。しかし月日はたちやすいものでね。七年ぐらいじきですよ」と言う。」



参考図書
『漱石全集』第六巻 岩波書店 1978年


日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ランキング

漱石・読んだふり 『三四郎』一

漱石
07 /19 2023
漱石・読んだふり 『三四郎』一

登場人物(登場順)
・三四郎

・女

・隣のじいさん


ストーリー
・京都から同じ汽車に乗り合わせた女の風貌

・女と隣のじいさんとの会話
  女の夫が大連に出稼ぎに行っているが、この半年音信も送金もないため実家に戻る途中であること
  じいさんの息子は戦争で死に、女の話に同情する

・女に名古屋で宿へ案内してくれるよう頼まれる

・宿に入ると下女が2人を連れと見なし同じ部屋に通し、三四郎は本当のことを言いそびれる

・三四郎が宿の風呂に入っていると、女が背中を流そうとはいって来るが、断ってすぐ湯を出る

・三四郎と女は一枚の蒲団で仕切りを作って一夜を過ごす

・三四郎と女が別の列車に乗るため別れる際、女に「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言われる

・東京行きの列車に乗った際、筋向かいの男が自分を見ているのに気づく

・途中の駅で男が買った水蜜桃を三四郎も勧められて食べる

  
語句
・水蜜桃:桃の栽培品種の一。果実が大きく水分と甘味に富む。中国の原産で、日本には明治期に導入。


歴史的人物・事項
・ベーコン
「そいつをそばへかき寄せて、底のほうから、手にさわったやつをなんでもかまわず引き出すと、読んでもわからないベーコンの論文集が出た。」

・子規
「子規は果物がたいへん好きだった。」

・レオナルド・ダ・ヴィンチ
「レオナルド・ダ・ヴィンチという人は桃の幹に砒石ひせきを注射してね、その実へも毒が回るものだろうか、どうだろうかという試験をしたことがある。」


女に言われたことに対する三四郎の心情
「どうも、ああ狼狽ろうばいしちゃだめだ。学問も大学生もあったものじゃない。はなはだ人格に関係してくる。もう少しはしようがあったろう。けれども相手がいつでもああ出るとすると、教育を受けた自分には、あれよりほかに受けようがないとも思われる。するとむやみに女に近づいてはならないというわけになる。なんだか意気地がない。非常に窮屈だ。まるで不具にでも生まれたようなものである。」


現在にも通じる表現
・「「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」」


参考図書
『漱石全集』第六巻 岩波書店 1978年


日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ランキング

Radiology2003

本日もご訪問いただきありがとうございます。
日々の生活の中で感じたこと・調べたことを備忘録として残しています。