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漱石・読んだふり 『虞美人草』十四

漱石
01 /18 2023
漱石・読んだふり 『虞美人草』十四

登場人物(登場順)
・宗近君

・小野さん

・孤堂先生


ストーリー
・宗近君が通りを歩く小野さんに追いつき、2人で歩きながら話す( 小野さんが持っていた屑籠からの話の展開、博覧会で一緒だった女(小夜子)について、文学者について)

・小野さんが、宗近君と別れて、頼まれていた紙屑籠と洋灯台を届けに孤堂先生の家に向かう

・小野さんの宗近君に対する思い(軽蔑と羨み)

・孤堂先生の体調(咳込むことが多い)

・孤堂先生が小野さんに小夜子と結婚する時期を問い質すが、小野さんは二、三日後に答えると返事をする



語句
・揚板:床下に物などを入れるために、くぎ付けにしないで、自由に取り外しできるようにした床板。

・根太:住宅の床を張るために必要となる下地材。



繰り返す表現
・「京の宿屋は何百軒とあるに、何で蔦屋へ泊り込んだものだろうと思う。泊らんでも済むだろうにと思う。わざわざ三条へ梶棒を卸おろして、わざわざ蔦屋へ泊るのはいらざる事だと思う。酔興だと思う。余計な悪戯だと思う。先方に益もないのに好んで人を苦しめる泊り方だと思う。しかしいくら、どう思っても仕方がないと思う。」



筆者による甲野さん、藤尾、宗近君の性格描写
・「甲野こうのさんは見つけても知らぬ顔をしている。藤尾は知らぬ顔をして、しかも是非共こちらから白状させようとする。宗近君は向から正面に質問してくる。」



風景描写
・「電車が赤い札を卸して、ぶうと鳴って来る。入れ代って後から町内の風を鉄軌の上に追い捲くって去る。按摩が隙を見計って恐る恐る向側へ渡る。茶屋の小僧が臼を挽きながら笑う。旗振の着るヘル地の織目は、埃がいっぱい溜って、黄色にぼけている。古本屋から洋服が出て来る。鳥打帽が寄席の前に立っている。今晩の語り物が塗板に白くかいてある。空は針線だらけである。一羽の鳶も見えぬ。上の静なるだけに下はすこぶる雑駁な世界である。」

・「月はまだ天のなかにいる。流れんとして流るる気色も見えぬ。地に落つる光は、冴ゆる暇なきを、重たき温気に封じ込められて、限りなき大夢を半空に曳く。乏しい星は雲を潜って向側へ抜けそうに見える。綿のなかに砲弾を打ち込んだのが辛うじて輝やくようだ。静かに重い宵である。」



本屋の本の装丁描写
・「小羊の皮を柔らかに鞣して、木賊色の濃き真中に、水蓮を細く金に描いて、弁の尽くる萼のあたりから、直なる線を底まで通して、ぐるりと表紙の周囲を回らしたのがある。背を平らに截って、深き紅に金髪を一面に這わせたような模様がある。堅き真鍮版に、どっかと布の目を潰して、重たき箔を楯形に置いたのがある。素気なきカーフの背を鈍色に緑に上に区切って、双方に文字だけを鏤めたのがある。ざら目の紙に、品よく朱の書名を配置した扉も見える。」



嘘について
・「できるならばと辛防して来た嘘はとうとう吐(つ)いてしまった。ようやくの思で吐いた嘘は、嘘でも立てなければならぬ。嘘を実と偽る料簡はなくとも、吐くからは嘘に対して義務がある、責任が出る。あからさまに云えば嘘に対して一生の利害が伴なって来る。もう嘘は吐けぬ。二重の嘘は神も嫌いだと聞く。今日からは是非共嘘を実と通用させなければならぬ。」



参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年


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漱石・読んだふり 『虞美人草』十三

漱石
12 /20 2022
漱石・読んだふり 『虞美人草』十三

登場人物(登場順)
・甲野さん

・糸子

・黒田さん


ストーリー
・甲野さんが宗近君の家を訪ねる

・甲野さんと糸子が玄関で出会う場面の描写

・前夜の博覧会について(小野さんが同伴していた小夜子のこと、庭に咲く花、藤尾について)



歴史的人物・事項
・常信
「長押作りに重い釘隠を打って、動かぬ春の床には、常信の雲竜の図を奥深く掛けてある。」



語句
・長押:和室の壁面の鴨居のすぐ上の位置に、ぐるりと囲むように取り付けられる化粧部材。



繰り返す言葉
・「小倉の襞を飽くまで潰した袴の裾から赭黒い足をにょきにょきと運ばして、茶を持って来る。煙草盆を持って来る。菓子鉢を持って来る。」



面白い表現
・「塗り立てて瓢箪形の池浅く、焙烙に熬る玉子の黄味に、朝夕を楽しく暮す金魚の世は、尾を振り立てて藻に潜るとも、起つ波に身を攫わるる憂いはない。鳴戸を抜ける鯛の骨は潮に揉まれて年々に硬くなる。荒海の下は地獄へ底抜けの、行くも帰るも徒事では通れない。ただ広海の荒魚も、三つ尾の丸っ子こも、同じ箱に入れられれば、水族館に隣合の友となる。隔たりの関は見えぬが、仕切る硝子は透き通りながら、突き抜けようとすれば鼻頭を痛めるばかりである。」



甲野さんの藤尾評
・「「藤尾のような女は今の世に有過ぎて困るんですよ。気をつけないと危い」」

・「「藤尾が一人出ると昨夕のような女を五人殺します」」



参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年


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虞美人草

漱石
12 /04 2022
漱石・読んだふり 『虞美人草』十ニ

登場人物(登場順)
・小野さん

・下女

・小夜子

・藤尾

・甲野さん

・謎の女(藤尾の母)



ストーリー
・現状に関する小野さんの思惑

・小夜子が小野さんの家を訪し、買い物に付き合ってもらうよう頼むが、小野さんは断る。

・藤尾の性質の説明

・小野さんが藤尾の家を訪問する




歴史的人物・事項
・芭蕉、蕪村、子規
「芭蕉が古池に蛙を飛び込ますと、蕪村が傘を担いで紅葉を見に行く。明治になっては子規と云う男が脊髄病を煩って糸瓜の水を取った。」



語句





文明の詩は金剛石ダイヤモンドより成る。紫むらさきより成る。薔薇ばらの香かと、葡萄ぶどうの酒と、琥珀こはくの盃さかずきより成る。






参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年


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漱石・読んだふり 『虞美人草』十一

漱石
11 /19 2022
漱石・読んだふり 『虞美人草』十一

登場人物(登場順)
・糸子

・藤尾

・宗近君

・甲野さん

・小野さん

・孤堂先生

・小夜子



ストーリー
・文明の民に関する記述

・博覧会のイルミネーションについての糸子・藤尾・宗近君・甲野さんの会話

・博覧会の雑踏で小野さん・孤堂先生・小夜子が歩き進むのに苦労し、小夜子を休ませるため茶屋に立ち寄る

・小野さんたちが休む茶屋に藤尾たちも立ち寄り、小野さんたちを見つける



語句
・黄袍:黄色の上衣。 位色による朝服の袍の一つで、日本では無位の者が朝儀に参列するときに着た。 中国では隋以降天子の服。

・青衿:青色の布で作った着物の襟。粗末な服装にいう。

・赫奕(かくえき):物事が盛んなこと。

・閻浮檀金 (えんぶだんごん):仏語。 閻浮提(えんぶだい)の閻浮樹の下にあるという金塊。 または、閻浮樹の林を流れる川の底に産する砂金。 また、広く、良質の金をいう。

・日和下駄:歯の低い差し歯下駄。主に晴天の日に履く。



作者の登場
・「運命は丸い池を作る。池を回めぐるものはどこかで落ち合わねばならぬ。落ち合って知らぬ顔で行くものは幸である。人の海の湧わき返る薄黒い倫敦ロンドンで、朝な夕なに回り合わんと心掛ける甲斐かいもなく、眼を皿に、足を棒に、尋ねあぐんだ当人は、ただ一重の壁に遮さえぎられて隣りの家に煤すすけた空を眺ながめている。それでも逢あえぬ、一生逢えぬ、骨が舎利になって、墓に草が生えるまで逢う事が出来ぬかも知れぬと書いた人がある。運命は一重の壁に思う人を終古に隔てると共に、丸い池に思わぬ人をはたと行き合わせる。変なものは互に池の周囲まわりを回りながら近寄って来る。不可思議の糸は闇の夜をさえ縫う。」



現代にも通じる内容
・「文明の民は劇烈なる生存せいそんのうちに無聊ぶりょうをかこつ。立ちながら三度の食につくの忙いそがしきに堪たえて、路上に昏睡こんすいの病を憂うれう。生を縦横に託して、縦横に死を貪むさぼるは文明の民である。文明の民ほど自己の活動を誇るものなく、文明の民ほど自己の沈滞に苦しむものはない。文明は人の神経を髪剃かみそりに削けずって、人の精神を擂木すりこぎと鈍くする。刺激に麻痺まひして、しかも刺激に渇かわくものは数すうを尽くして新らしき博覧会に集まる。」

・「いやしくも生きてあらば、生きたる証拠を求めんがためにイルミネーションを見て、あっと驚かざるべからず。文明に麻痺したる文明の民は、あっと驚く時、始めて生きているなと気がつく。」



鍵となる甲野さんの言葉
・「驚くうちは楽しみがあるもんだ。女は楽が多くて仕合せだね」




参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年


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漱石・読んだふり 『虞美人草』十

漱石
11 /06 2022
漱石・読んだふり 『虞美人草』十

登場人物(登場順)
・謎の女(藤尾・甲野さんの母)

・宗近家の和尚

・宗近君

・糸子


ストーリー
・謎の女の説明

・謎の女が宗近家を訪れる。

・謎の女と宗近家の和尚との時候の挨拶(謎の女の家の浅葱桜について)

・謎の女が宗近家の和尚に甲野さんの結婚の斡旋を頼む

・宗近家の和尚が藤尾を宗近君の結婚相手にと申し出る

・宗近君と妹糸子との会話(父が勝った松について、糸子の兄に対する思い、兄と藤尾についての糸子の思い、京都で出会った娘(小夜子)について)



語句
・欝金木綿: 鬱金染めまたは、人工染料による黄色の木綿。

・板目紙:和紙を何枚も貼り合わせて、厚く硬くしたもの。和本の表紙や袴はかまの腰板などに用いる。

・入子菱:菱襷の中に菱を入れた織文様の一種。多く羅や紗の模様として用いられる。



繰り返す表現
・「謎の女は金剛石のようなものである。いやに光る。そしてその光りの出所が分らぬ。右から見ると左に光る。左から見ると右に光る。」

・「ある人が云う。あまりしとやかに礼をする女は気味がわるい。またある人が云う。あまり丁寧に御辞儀をする女は迷惑だ。第三の人が云う。人間の誠は下げる頭の時間と正比例するものだ。」

・「謎の女は人を迷宮に導いて、なるほどと云わせる。ふうんと云わせる。灰吹をぽんと云わせる。」



作家の出現
・「謎の女の云う事はしだいに湿気を帯びて来る。世に疲れたる筆はこの湿気を嫌う。辛うじて謎の女の謎をここまで叙し来った時、筆は、一歩も前へ進む事が厭だと云う。日を作り夜を作り、海と陸とすべてを作りたる神は、七日目に至って休めと言った。謎の女を書きこなしたる筆は、日のあたる別世界に入ってこの湿気を払わねばならぬ。




参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年


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