漱石・読んだふり 『虞美人草』十四
漱石
漱石・読んだふり 『虞美人草』十四
登場人物(登場順)
・宗近君
・小野さん
・孤堂先生
ストーリー
・宗近君が通りを歩く小野さんに追いつき、2人で歩きながら話す( 小野さんが持っていた屑籠からの話の展開、博覧会で一緒だった女(小夜子)について、文学者について)
・小野さんが、宗近君と別れて、頼まれていた紙屑籠と洋灯台を届けに孤堂先生の家に向かう
・小野さんの宗近君に対する思い(軽蔑と羨み)
・孤堂先生の体調(咳込むことが多い)
・孤堂先生が小野さんに小夜子と結婚する時期を問い質すが、小野さんは二、三日後に答えると返事をする
語句
・揚板:床下に物などを入れるために、くぎ付けにしないで、自由に取り外しできるようにした床板。
・根太:住宅の床を張るために必要となる下地材。
繰り返す表現
・「京の宿屋は何百軒とあるに、何で蔦屋へ泊り込んだものだろうと思う。泊らんでも済むだろうにと思う。わざわざ三条へ梶棒を卸おろして、わざわざ蔦屋へ泊るのはいらざる事だと思う。酔興だと思う。余計な悪戯だと思う。先方に益もないのに好んで人を苦しめる泊り方だと思う。しかしいくら、どう思っても仕方がないと思う。」
筆者による甲野さん、藤尾、宗近君の性格描写
・「甲野こうのさんは見つけても知らぬ顔をしている。藤尾は知らぬ顔をして、しかも是非共こちらから白状させようとする。宗近君は向から正面に質問してくる。」
風景描写
・「電車が赤い札を卸して、ぶうと鳴って来る。入れ代って後から町内の風を鉄軌の上に追い捲くって去る。按摩が隙を見計って恐る恐る向側へ渡る。茶屋の小僧が臼を挽きながら笑う。旗振の着るヘル地の織目は、埃がいっぱい溜って、黄色にぼけている。古本屋から洋服が出て来る。鳥打帽が寄席の前に立っている。今晩の語り物が塗板に白くかいてある。空は針線だらけである。一羽の鳶も見えぬ。上の静なるだけに下はすこぶる雑駁な世界である。」
・「月はまだ天のなかにいる。流れんとして流るる気色も見えぬ。地に落つる光は、冴ゆる暇なきを、重たき温気に封じ込められて、限りなき大夢を半空に曳く。乏しい星は雲を潜って向側へ抜けそうに見える。綿のなかに砲弾を打ち込んだのが辛うじて輝やくようだ。静かに重い宵である。」
本屋の本の装丁描写
・「小羊の皮を柔らかに鞣して、木賊色の濃き真中に、水蓮を細く金に描いて、弁の尽くる萼のあたりから、直なる線を底まで通して、ぐるりと表紙の周囲を回らしたのがある。背を平らに截って、深き紅に金髪を一面に這わせたような模様がある。堅き真鍮版に、どっかと布の目を潰して、重たき箔を楯形に置いたのがある。素気なきカーフの背を鈍色に緑に上に区切って、双方に文字だけを鏤めたのがある。ざら目の紙に、品よく朱の書名を配置した扉も見える。」
嘘について
・「できるならばと辛防して来た嘘はとうとう吐(つ)いてしまった。ようやくの思で吐いた嘘は、嘘でも立てなければならぬ。嘘を実と偽る料簡はなくとも、吐くからは嘘に対して義務がある、責任が出る。あからさまに云えば嘘に対して一生の利害が伴なって来る。もう嘘は吐けぬ。二重の嘘は神も嫌いだと聞く。今日からは是非共嘘を実と通用させなければならぬ。」
参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
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登場人物(登場順)
・宗近君
・小野さん
・孤堂先生
ストーリー
・宗近君が通りを歩く小野さんに追いつき、2人で歩きながら話す( 小野さんが持っていた屑籠からの話の展開、博覧会で一緒だった女(小夜子)について、文学者について)
・小野さんが、宗近君と別れて、頼まれていた紙屑籠と洋灯台を届けに孤堂先生の家に向かう
・小野さんの宗近君に対する思い(軽蔑と羨み)
・孤堂先生の体調(咳込むことが多い)
・孤堂先生が小野さんに小夜子と結婚する時期を問い質すが、小野さんは二、三日後に答えると返事をする
語句
・揚板:床下に物などを入れるために、くぎ付けにしないで、自由に取り外しできるようにした床板。
・根太:住宅の床を張るために必要となる下地材。
繰り返す表現
・「京の宿屋は何百軒とあるに、何で蔦屋へ泊り込んだものだろうと思う。泊らんでも済むだろうにと思う。わざわざ三条へ梶棒を卸おろして、わざわざ蔦屋へ泊るのはいらざる事だと思う。酔興だと思う。余計な悪戯だと思う。先方に益もないのに好んで人を苦しめる泊り方だと思う。しかしいくら、どう思っても仕方がないと思う。」
筆者による甲野さん、藤尾、宗近君の性格描写
・「甲野こうのさんは見つけても知らぬ顔をしている。藤尾は知らぬ顔をして、しかも是非共こちらから白状させようとする。宗近君は向から正面に質問してくる。」
風景描写
・「電車が赤い札を卸して、ぶうと鳴って来る。入れ代って後から町内の風を鉄軌の上に追い捲くって去る。按摩が隙を見計って恐る恐る向側へ渡る。茶屋の小僧が臼を挽きながら笑う。旗振の着るヘル地の織目は、埃がいっぱい溜って、黄色にぼけている。古本屋から洋服が出て来る。鳥打帽が寄席の前に立っている。今晩の語り物が塗板に白くかいてある。空は針線だらけである。一羽の鳶も見えぬ。上の静なるだけに下はすこぶる雑駁な世界である。」
・「月はまだ天のなかにいる。流れんとして流るる気色も見えぬ。地に落つる光は、冴ゆる暇なきを、重たき温気に封じ込められて、限りなき大夢を半空に曳く。乏しい星は雲を潜って向側へ抜けそうに見える。綿のなかに砲弾を打ち込んだのが辛うじて輝やくようだ。静かに重い宵である。」
本屋の本の装丁描写
・「小羊の皮を柔らかに鞣して、木賊色の濃き真中に、水蓮を細く金に描いて、弁の尽くる萼のあたりから、直なる線を底まで通して、ぐるりと表紙の周囲を回らしたのがある。背を平らに截って、深き紅に金髪を一面に這わせたような模様がある。堅き真鍮版に、どっかと布の目を潰して、重たき箔を楯形に置いたのがある。素気なきカーフの背を鈍色に緑に上に区切って、双方に文字だけを鏤めたのがある。ざら目の紙に、品よく朱の書名を配置した扉も見える。」
嘘について
・「できるならばと辛防して来た嘘はとうとう吐(つ)いてしまった。ようやくの思で吐いた嘘は、嘘でも立てなければならぬ。嘘を実と偽る料簡はなくとも、吐くからは嘘に対して義務がある、責任が出る。あからさまに云えば嘘に対して一生の利害が伴なって来る。もう嘘は吐けぬ。二重の嘘は神も嫌いだと聞く。今日からは是非共嘘を実と通用させなければならぬ。」
参考図書
『漱石全集』第五巻 岩波書店 1978年
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
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