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金子みすゞ私的鑑賞  140. 祇園社

金子みすゞ
09 /05 2023
  祇園社  

はらはら
松の葉が落ちる、
お宮の秋は
さみしいな。

のぞきの唄よ
瓦斯(ガス)の灯(ひ)よ、
赤い帯した
肉桂よ。

いまは
こはれた氷屋(こほりや)に、
さらさら
秋風ふくばかり。


『金子みすゞ全集』 Ⅲ.さみしい王女 p 89


3連12行
4 8、7 5。 7 5、7 5。 3 9、4 9。


仙崎の景色を歌った「仙崎八景」と題する8篇の詩の一つです。

仙崎の人からは「祇園社」と呼ばれ親しまれている「八阪神社(八坂神社)」の秋を歌っています。

毎年7月に行われる祭りの賑わいと対比された秋のもの寂しさが強調されています。

第2連の「のぞきの唄」「瓦斯の灯」「肉桂」が祭りの情景を代表しています。

「のぞきの唄」は「のぞきからくり」というお祭りの時の見せ物の際に歌われる歌、「瓦斯の灯」は夜店のアセチレンガスの照明、「肉桂」は出店で売られていたであろうニッキのようですが、どれも現代の祭りではお目にかかれないものになっています。

祭りの時には客の列ができたであろう氷屋の店の構えも朽ち果てて秋の寂しさを増幅させます。


みすゞさんにとって祭りと氷屋はセットのようで、「夏越(なごし)まつり」「まつりの頃」の詩にも「氷屋」が登場します。


八阪神社の鳥居の扁額は「八坂」で拝殿の扁額は「八阪」と書かれているということです。



名詞:   松、 葉、 お宮、 秋、 のぞき、 唄、 瓦斯、 灯、 帯、 肉桂、 いま、 氷屋、 秋風  

形容詞: さみしい、 赤い

動詞: 落ちる、 こはれる、 ふく



通算登場回数  
今回登場  
赤(赤い、あかい):20作目  
    
   
今回登場なし  
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):34作目
(お)海(外海内海、大海):27作目  
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):21作目   
青(青い、青む):20作目    
白(白い、しろい、眞白な):16作目    
(お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目
(お)花:14作目  
雲(雲間):12作目   
お月さん(お月さま、月、月夜):11作目
黒(黒い、くろい):9作目    
(お)星(さま):8作目    
雪(雪の日):8作目   
波:7作目    
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
お祖母さま(樣):5作目  
みどり(こみどり):5作目       
(お)父さま(父さん):4作目    
石ころ(石):3作目
紅い:2作目
紺:2作目   
紫(むらさき):2作目  
さくら(山ざくら):2作目    
藍いろ:1作目   
金:1作目   


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  139. 木

金子みすゞ
08 /22 2023
  木  

小鳥は
小枝のてつぺんに、
子供は
木かげの鞦韆(ぶらんこ)に、
小ちやな葉つぱは
芽のなかに。

あの木は、
あの木は、
うれしかろ。


『金子みすゞ全集』 Ⅱ空のかあさま p117


2連9行
4 9、4 9、8 5。 4、4、5。

内容が素直に受け止められる詩です。

自分の枝が小鳥の止まり木となり、自分の作る陰が子供の日除けとなり、自分が育みつつある葉の保護者となっているという自覚は、マズローの欲求五段階説を出すまでもなく自分の存在意義を実感できる心地よいものです。

自分もそういう存在になりたいというみすゞさんの気持ちを透かし見るのは穿ちすぎでしょうか。

あなたはどうですかと尋ねられているようにも感じてしまいます。


前回の詩と同名タイトルです。

「樂隊」のところでも触れましたが、同名タイトルをもつ詩としては、「樂隊」「木」以外では「花火」「雲」「帆」などがあります。


この詩には動詞がつかわれていません。

これまで見てきたみすゞさんの詩では初めてです。



名詞:   小鳥、 小枝、 てつぺん、 子供、 木かげ、 鞦韆、 葉つぱ、 芽、 木(2回)、 

形容詞: うれしい

動詞: (―)



通算登場回数  
今回登場  
  
   
今回登場なし  
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):34作目
(お)海(外海内海、大海):27作目  
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):21作目   
青(青い、青む):20作目    
赤(赤い、あかい):19作目   
白(白い、しろい、眞白な):16作目    
(お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目
(お)花:14作目  
雲(雲間):12作目   
お月さん(お月さま、月、月夜):11作目
黒(黒い、くろい):9作目    
(お)星(さま):8作目    
雪(雪の日):8作目   
波:7作目    
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
お祖母さま(樣):5作目  
みどり(こみどり):5作目       
(お)父さま(父さん):4作目    
石ころ(石):3作目
紅い:2作目
紺:2作目   
紫(むらさき):2作目  
さくら(山ざくら):2作目    
藍いろ:1作目   
金:1作目   


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
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金子みすゞ私的鑑賞  138. 木

金子みすゞ
08 /08 2023
  木  

お花が散つて
實が熟れて、
                      
その實が落ちて
葉が落ちて、  
                      
それから芽が出て
花が咲く。
          
さうして何べん
まはつたら、
この木は御用が
すむか知ら。


『金子みすゞ全集』 Ⅰ美しい町 p90


4連10行
7 5、 7 5、 8 5。 8 5、8 5。


「花が散る」→「実が熟れる」→「実が落ちる」→「葉が落ちる」→「新芽が出る」→「花が咲く」→「花が散る」

この循環は樹木の自然界におけるごく普通の営みです。

そして「実が熟れる」→「実が落ちる」ところに動物が恩恵を受けます。これも自然の営みです。

しかし、そこに人間が関わってくると自然さが失われます。

肥料を与え、接木をして増やし、必要以上の実を収穫していきます。

その不自然さが「御用」という言葉で表現されています。

そうは言っても、木を利用する人間の営みを否定する意図はこの詩にはありません。

ただ木の命が尽きるまで利用し尽くすのではなく、ある程度のところで自然の営みに戻らせてあげたいという気持ちが、「この木は御用がすむか知ら」に込められていると思います。


名詞:   (お)花(2回)、 實(2回)、 葉、 芽、 木、 御用

形容詞: (ー) 

動詞: 散る、 熟れる、 落ちる(2回)、 出る、 咲く、 まはる、 すむ



通算登場回数  
今回登場  
(お)花:14作目     
   
今回登場なし  
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):34作目
(お)海(外海内海、大海):27作目  
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):21作目   
青(青い、青む):20作目    
赤(赤い、あかい):19作目   
白(白い、しろい、眞白な):16作目    
(お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目
雲(雲間):12作目   
お月さん(お月さま、月、月夜):11作目
黒(黒い、くろい):9作目    
(お)星(さま):8作目    
雪(雪の日):8作目   
波:7作目    
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
お祖母さま(樣):5作目  
みどり(こみどり):5作目       
(お)父さま(父さん):4作目    
石ころ(石):3作目
紅い:2作目
紺:2作目   
紫(むらさき):2作目  
さくら(山ざくら):2作目    
藍いろ:1作目   
金:1作目   


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
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金子みすゞ私的鑑賞  137.寒のあめ

金子みすゞ
07 /25 2023
 寒のあめ 

しぼしぼ雨に  
日ぐれの雨に、 
まだ灯のつかぬ、
街燈がぬれて。 

きのふの凧は  
きのふのままに、
梢にたかく、  
やぶれてぬれて。

重たい傘を、  
お肩にかけて、 
おくすり提げて、
私はかへる。  

しぼしぼ雨に 
日ぐれの雨に、 
蜜柑の皮は、  
ふまれて、ぬれて。


『金子みすゞ全集』 Ⅱ空のかあさま pp191〜192


4連16行
7 7、7、7。  7 7、7、7。  7、7、7、7。  7 7、7、7。


雨の日暮れに薬をもらって帰るお使いの情景です。

雨の日のお使いですから楽しくないのは当然で、「灯のつかぬ」「やぶれてぬれて」「重たい傘」「ふまれて、ぬれて」などの表現から、全体的に暗い印象を受ける詩です。

みすゞさんの技法である視点の移動が、連ごとに見られます。

「街燈→梢の凧→私→地面の上の蜜柑の皮」といったん上がった視線が「私」を経由して地面まで急降下して行く動きが、雨の暗く寂しい静かな情景と対照的です。


その他、七言絶句のような押韻のしかたや、読点の使い分けなど、どこまで意識していたのかみすゞさんに尋ねてみたい箇所がいくつかある詩です。



名詞:   雨(4回)、 日ぐれ(2回)、 灯、 街燈、 きのふ(2回)、 凧、 梢、 傘、 肩、 おくすり、 私、 蜜柑、 皮

形容詞: たかい、 重たい

動詞: つく、 ぬれる(3回)、 やぶれる、 かける、 提げる、 かへる、 ふむ



通算登場回数  
今回登場     
   
今回登場なし  
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):34作目
(お)海(外海内海、大海):27作目  
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):21作目   
青(青い、青む):20作目    
赤(赤い、あかい):19作目   
白(白い、しろい、眞白な):16作目    
(お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目
(お)花:13作目  
雲(雲間):12作目   
お月さん(お月さま、月、月夜):11作目
黒(黒い、くろい):9作目    
(お)星(さま):8作目    
雪(雪の日):8作目   
波:7作目    
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
お祖母さま(樣):5作目  
みどり(こみどり):5作目       
(お)父さま(父さん):4作目    
石ころ(石):3作目
紅い:2作目
紺:2作目   
紫(むらさき):2作目  
さくら(山ざくら):2作目    
藍いろ:1作目   
金:1作目   


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  136.元日

金子みすゞ
07 /10 2023
元日

みんなで双六しませうと、
みんなの御用のすむときを、
待つてゐるまはさみしいな。
  遠い遠い原つぱで
  男の子たちの聲がする。

大戸卸して屏風をたてて、
暗い暗いうちのなか、
お山のやうにさみしいな。
  凍てた表にからころと
  さむい足駄の音がする。

昨日は夜を待ちくたびれて、
今朝も跳ね跳ねお着物(べべ)を着たが、
お正月とはさみしいものよ。
  姉さん學校へいつちやつて
  母さん御用がまだすまぬ。


『金子みすゞ全集』 Ⅱ空のかあさま p152


3連15行
13、13、12。11 13。  14、11、12。12 12。  14、14、14。13 13。


この詩に使われている3つの形容詞「さみしい」「遠い」「暗い」はどれもネガティブな意味合いのものになっています。

タイトルの「元日」という単語から想起されるのは、一年の始まりであることから一般的には、明るく希望に満ちた内容ではないでしょうか。

ところがこの詩の内容は大方の予想を裏切るものとなっています。

そういえば「大晦日と元日」という詩でも、大晦日が明・元日が暗という対比になっていました。

どうもみすゞさんにとって元日はあまりいい記憶が残っていない日のようです。

そしておそらくその要因は「母さん」にあったと思われます。

これまでもみすゞさんの詩に登場する「母」像は距離感を伴ったよそよそしいものであることをたびたび見てきました。

この詩でも最後の行の「母さん御用がまだすまぬ。」が印象的です。

本来ならば元日に限らず家族団欒の中心で明るく優しい存在であるはずの「母」は、まだ用事が済まずに自分を放ったらかしにしたままの、不満の対象としての存在です。

そばにいて見守って欲しい人の不在は、元日にはいつにも増して辛く感じるはずです。



名詞:   みんな(2回)、 双六、 御用(2回)、 とき、 ま、 原つぱ、 男の子、 聲、 大戸、 屏風、 うち、 なか、 お山、 表、 足駄、 音、 昨日、 夜、 今朝、 お着物、 お正月、 もの、 姉さん、 學校、 母さん

形容詞: さみしい(3回)、 遠い(2回)、 暗い(2回) 

動詞: する(3回)、 すむ、 待つ(2回)、 卸す、 たてる、 凍てる、 くたびれる、 跳ねる(2回)、 着る、 いく、 すむ



通算登場回数  
今回登場  
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):21作目     
   
今回登場なし  
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):34作目
(お)海(外海内海、大海):27作目   
青(青い、青む):20作目    
赤(赤い、あかい):19作目   
白(白い、しろい、眞白な):16作目    
(お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目
(お)花:13作目  
雲(雲間):12作目   
お月さん(お月さま、月、月夜):11作目
黒(黒い、くろい):9作目    
(お)星(さま):8作目    
雪(雪の日):8作目   
波:7作目    
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
お祖母さま(樣):5作目  
みどり(こみどり):5作目       
(お)父さま(父さん):4作目    
石ころ(石):3作目
紅い:2作目
紺:2作目   
紫(むらさき):2作目  
さくら(山ざくら):2作目    
藍いろ:1作目   
金:1作目   


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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