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金子みすゞ私的鑑賞  128. 硝子と文字

金子みすゞ
03 /06 2023
硝子と文字  

硝子は
空つぽのやうに
すきとほつて見える。

けれども
たくさん重なると、
海のやうに青い。

文字は
蟻のやうに
黒くて小さい。

けれども
たくさん集まると、
黄金(きん)のお城のお噺もできる。

『金子みすゞ全集』 Ⅲ さみしい王女 p95


4連12行
4 8 9。  4 9、9。  3 6 8。  4 9、10。


硝子がたくさん重なると青く見えるかどうかは、見たことがないのでわかりません。

同じ透きとおっている水は海になれば青く見えるので、同じ原理かもしれません。

しかし、この詩で重要なのは後半です。

どの言語にしても、一つ一つの文字はそれだけでは意味を持ちません(表意文字である漢字は意味を持ちますが、広がりはありません)。

しかし、それらが集まり連なるとお噺ができ、哲学ができ、自然科学ができます。

文字は文化・文明の源泉であることを思い出させてくれる詩です。

文字を「蟻のやうに黒くて小さい」と表現するところも面白いです。



名詞:    硝子、 空つぽ、 海、 文字、 蟻、 黄金、 お城、 お噺

形容詞:  青い、 黒い、 小さい

動詞: すきとほる、 見える、 重なる、 集まる、 できる



通算登場回数  
今回登場    (お)海(外海内海):26作目   青(青い、青む):20作目    黒(黒い):8作目   
 
今回登場なし  (お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):33作目    母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):19作目    赤(赤い、あかい):19作目   白(白い、しろい、眞白な):16作目    (お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目  雲(雲間):12作目   お月さん(お月さま、月、月夜):11作目    (お)花:10作目   (お)星(さま):8作目    波:7作目    雪(雪の日):7作目   (お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)    (お)父さま(父さん):4作目    みどり(こみどり):4作目    お祖母さま:3作目 石ころ(石):3作目 紅い:2作目 紺:2作目   藍いろ:1作目   紫(むらさき):2作目   金:1作目   さくら:1作目  


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  127. 硝子

金子みすゞ
02 /20 2023
硝子  

思ひ出すのは雪の日に
落ちて砕けた窓硝子

あとで、あとでと思つてて
ひろはなかつた窓がらす

びつこの犬をみるたびに
もしやあの日の窓下を
とほりやせぬかと思つては
忘れられない、雪の日の
雪にひかつた窓がらす


『金子みすゞ全集』 Ⅰ 青い空 p133


3連9行
12 12 12 12 12 12 12 12 12


行動しなかったことに対する後悔はよくあるものです。

日々の生活でも何度もありますが、ほとんどのことは忘れてしまいます。

強い印象があっもの、後悔の強いものがいつまでも心の中に残ります。

犬がびっこになった原因が硝子を踏んだことであったかはわかりませんが、みすゞさんは、砕けた窓がらすを自分がすぐに拾わなかったためではないかと罪悪感を感じるタイプの人だったようです。

そういうタイプの人が多くあれかしと祈るばかりです。


この詩には句読点が一つも使用されていません。



名詞:   雪の日(2回)、 窓硝子(がらす)(3回)、 びつこ、 犬、 日、 窓下、 雪

形容詞:  (ー)

動詞: 落ちる、 砕ける、 思ふ(2回)、 ひろふ、 みる、 とほる、 忘れる、 ひかる



通算登場回数  
今回登場    雪(雪の日):7作目    
 
今回登場なし  (お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):33作目    (お)海(外海内海):25作目   母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):19作目    青(青い、青む):19作目    赤(赤い、あかい):19作目   白(白い、しろい、眞白な):16作目    (お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目  雲(雲間):12作目   お月さん(お月さま、月、月夜):11作目    (お)花:10作目   (お)星(さま):8作目    波:7作目    黒い:7作目   (お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)    (お)父さま(父さん):4作目    みどり(こみどり):4作目    お祖母さま:3作目 石ころ(石):3作目 紅い:2作目 紺:2作目   藍いろ:1作目   紫(むらさき):2作目   金:1作目   さくら:1作目  


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  126. 蚊帳

金子みすゞ
02 /06 2023
蚊帳  

蚊帳のなかの私たち
網にかかつたお魚だ。
青い月夜の青い海
波にゆらゆら青い網。

なんにも知らずねてる間に
暇なお星が曳きにくる。
夜の夜なかに目がさめりや
雲の砂地にねてゐよう。


『金子みすゞ全集』 Ⅰ 青い空 p224


2連8行
11 12。 12 12。   13 12。 12 12。


現代人に蚊帳と言ってもイメージできる人は少ないと思います。

小学校までは蚊帳を吊って寝ていた私はかろうじてイメージできる世代に引っ掛かっています。

寝室を海の中に見立てたら、その中に寝ている私たちは、まさに網の中に捕らわれた魚です。

そして、朝になって蚊帳を吊っている輪っかを外してしまうと、その光景はまさしく砂浜に引き上げられた地引網そのものです。

この詩を実感をもって味わえるのですから、年をとっていることもまんざら悪いことではないようです。



名詞:   蚊帳、 なか、 私たち、 網(2回)、 お魚、 月夜、 海、 波、 暇、 お星、 夜(夜なか)、 目、 雲、 砂地

形容詞:  青い(3回)

動詞: かかる、 知る、 ねる(2回)、 曳く、 さめる、 ゐる



通算登場回数  
今回登場    (お)海(外海内海):25作目   青(青い、青む):19作目    雲(雲間):12作目   お月さん(お月さま、月、月夜):11作目    (お)星(さま):8作目    波:7作目    (お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)    
 
今回登場なし  (お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):33作目    母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):19作目    赤(赤い、あかい):19作目   白(白い、しろい、眞白な):16作目    (お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目  (お)花:10作目   黒い:7作目   雪:6作目    (お)父さま(父さん):4作目    みどり(こみどり):4作目    お祖母さま:3作目 石ころ(石):3作目 紅い:2作目 紺:2作目   藍いろ:1作目   紫(むらさき):2作目   金:1作目   さくら:1作目  


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  125. 紙ふうせん

金子みすゞ
01 /23 2023
紙ふうせん  

一つ、ついては、手をたたく、
紙ふうせんののぼる空。

絹の旗雲、羽の雲、
柳のやうな、枝の雲。

「さんさん笹山」その唄の
猿もさんさん、笹山で、
お手々たたいて春の日を、
みなでたのしくあすぼうし、

ひとりあそびもお日和は、
ひとりあそびも春の日は。


『金子みすゞ全集』 Ⅱ 空のかあさま p253


4連10行
12、12。 12、12。 13 12、12、12、 12、12。


「紙ふうせん」という言葉を聞くとどこかしら郷愁を誘われます。

赤・白・黄・緑などの色が目に浮かびます。

平成以降に生まれた人は「紙ふうせん」と聞いてもピンとこないかもしれません。

つく際には紙が破れないように、しかもすぐ落ちてこないように、力加減に気を使います。

そこがゴム風船に比べ、遊びとしての要素が大きいと思います。

1891年に「紙手鞠」などの名称で流行したようなので、1903年生まれのみすゞさんの世代には玩具として定着していたと思われます。

その紙ふうせんをつくと、当然視線が上に向かいます。

つくことだけに集中してしまうと紙ふうせんしか見えませんが、みすゞさんには空の雲が見えてしまいます。

そこからさらにみすゞさんの思考は、紙ふうせんをついて落ちてくるまでに「手をたたく」動作から、同じ手をたたく「さんさん笹山」と唄いながら手をたたく遊びに移ります。

「さんさん笹山」という唄やそれを用いた遊びは私は知りません。

ネットで調べても該当する情報はヒットしませんでした。

ただ全集には註として以下の文が揚げられていることから、唄いながら手をたたく遊びと推測されます。

「さんさん笹山お猿が一匹手をたたく」一つ手を拍つ、
「さんさん笹山お猿が二匹手をたたく」二つ手を拍つ。

そしておそらくこの詩の主眼は、「旗雲」や「枝の雲」しかない晴れた春の日のみんなで遊び日和の日なのに、「みなでたのしく」遊ぶ「さんさん笹山」はしたくてもできない、「ひとりあそび」の紙ふうせんしかできない、一人でいる状況ではないでしょうか。



名詞:   一つ、 手(お手々)(2回)、 紙ふうせん、 空、 絹、 旗雲、 羽、 雲(2回)、 柳、 枝、 笹山(2回)、 唄、 猿、 春(2回)、 日(2回)、 みな、 ひとりあそび(2回)、 お日和

形容詞:  たのしい

動詞: つく、 たたく(2回)、 のぼる、 あすぶ 



通算登場回数  
今回登場    (お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):33作目    雲(雲間):11作目   
 
今回登場なし  (お)海(外海内海):24作目   母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):19作目    赤(赤い、あかい):19作目   青(青い、青む):18作目    白(白い、しろい、眞白な):16作目    (お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目  お月さん(お月さま、月):10作目    (お)花:10作目   (お)星(さま):7作目    黒い:7作目   雪:6作目    波:6作目    (お)魚(さかな):5作目(タイトルのみ1作)    (お)父さま(父さん):4作目    みどり(こみどり):4作目    お祖母さま:3作目 石ころ(石):3作目 紅い:2作目 紺:2作目   藍いろ:1作目   紫(むらさき):2作目   金:1作目   さくら:1作目  


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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金子みすゞ私的鑑賞  124. 蛙

金子みすゞ
01 /09 2023
蛙  

憎まれつ子、
憎まれつ子、
いつでも、かつでも、誰からも。

雨が降らなきや、草たちが、
「なんだ、蛙め、なまけて。」と、
それをおいらが知る事か。

雨が降り出しや子供らが、
「あいつ、鳴くから降るんだ。」と、
みんなで石をぶつつける。

それがかなしさ、口をしさ、
今度は降れ、降れ、降れ、となく。

なけばからりと晴れあがり、
馬鹿にしたよな、虹が出る。


『金子みすゞ全集』 Ⅲさみしい王女 pp272〜273


5連13行
5、5、13。 12、12、12。 12、12、12。 12、13。 12、12。


鳴いても鳴かなくてもどこかしらから非難を浴び、やけくそで鳴いたら期待とは異なる結果が生じた蛙を歌っています。

会社の中間管理職をはじめ、現代の社会の中にも同じような板挟み状態で「かなしさ、口をしさ」を感じている人は多いのではないでしょうか。

それでもそんなちょっと悲惨な状況を表現しながらも、「からり」「馬鹿にしたよな」「虹」といった言葉が、読む人を最後には少しだけ微笑ませます。

みすゞさんが詩を投稿していた大正時代の童謡全盛期の雰囲気を感じさせてくれる詩だと思います。

「蛙が鳴くと雨が降る」という言い伝えは明治・大正時代にはすでにあったことが分かります。

縄文・弥生時代のころから稲作を続けてきた日本人にとって、田植えの時期と重なる梅雨や蛙の繁殖期間とは強い因果関係を形成してきたことを改めて思い出させます。



名詞:   憎まれつこ(2回)、 いつ、 かつ、 誰、 雨(2回)、 草たち、 蛙、 おいら、 事、 子供ら、 あいつ、 石、 馬鹿

形容詞:  さみしい、 口をしい

動詞: 憎む(2回)、 降る(6回)、 なまける、 知る、 鳴く(なく)(3回)、 ぶつつける、 する、 出る


通算登場回数  
今回登場    石ころ(石):3作目
 
今回登場なし  (お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空):32作目   (お)海(外海内海):24作目   母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):19作目    赤(赤い、あかい):19作目   青(青い、青む):18作目    白(白い、しろい、眞白な):16作目    (お)舟・小舟・船・帆かけ舟:15作目  お月さん(お月さま、月):10作目    雲(雲間):10作目   (お)花:10作目   (お)星(さま):7作目    黒い:7作目   雪:6作目    波:6作目    (お)魚(さかな):5作目(タイトルのみ1作)    (お)父さま(父さん):4作目    みどり(こみどり):4作目    お祖母さま:3作目 紅い:2作目 紺:2作目   藍いろ:1作目   紫(むらさき):2作目   金:1作目   さくら:1作目  


参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修  JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年



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