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フェルメール作品解説探訪 ⑨≪デルフト眺望≫

フェルメール
04 /07 2019
⑨≪デルフト眺望≫


・所蔵先:マウリッツハイス美術館

・制作年:1659〜60

・サイズ: 96.5×115.7cm


[諸解説]
・街の南側に位置するコルク港の対岸からデルフトが眺められている。

・中央後景のマルクト広場東にそびえる新教会の塔上部には、カリヨンが描かれていないことから、本作品がカリヨン取り付けが始まった1660年夏以前に描かれたと推測できる。

・当時の地図などから、左側の市壁のすぐ後ろの通り、ケテル・ストラートに面して並ぶ家並みは、当時の状況を比較的正確に反映していることが判明している。二つの教会の塔の位置関係も、現状とほぼ一致する。しかし、街をそのままに写生したわけではなく、自分の理想とする美しさを持つように描いたと言われている。

・画面左中景と中央のスヒーダム門が低い視点から眺められているのに対し、右側と前景がやや俯瞰気味に捉えられている。

・X線写真から、運河に映っているロッテルダム門の影が長く延びるよう修正されていることが判明している。

・フェルメールを再発見したと評価されている美術評論家テオフィール・トレ(トレ・ビュルガー)は、1866年美術雑誌に掲載された論文で、フェルメールを忘れられていた天才と形容し、《デルフト眺望》を絶賛した。

・画家フィンセント・ファン・ゴッホは、弟テオに宛てた手紙で「《デルフト眺望》は、近くから眺めると、何歩かさがって見た時とは違い、全く異なる色で処理されていることがわかる。」と書いている。

・フランスの作家マルセル・プルーストは、《デルフト眺望》を「世界で最も美しい絵」と形容した。



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西洋絵画、西洋美術の画像・壁紙:
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/vermeer.html


参考書籍
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 同朋舎出版 1995年
『週刊美術館 8 フェルメール』 小学館 2000年
『フェルメール全点踏破の旅』 朽木ゆり子著 集英社新書 2006年
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 小林頼子著 八坂書房 2008年
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』 2008年9月
『フェルメール 光の王国』 福岡伸一著 2011年
『限定版 フェルメール全作品集』 小林頼子著 小学館 2012年
『魅惑のフェルメール全仕事』 TJMOOK 2015年1月
『フェルメール展公式ガイドブック』 AERA MOOK 2018年
『フェルメール展』図録 2018年


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フェルメール作品解説探訪 ⑧≪小路≫

フェルメール
03 /29 2019
⑧≪小路≫


・所蔵先:アムステルダム国立美術館

・制作年:1658〜59

・サイズ: 53.5×43.5cm


[諸解説]
・建物本体はやや暗めの茶系で彩色され、煉瓦をつなぐモルタルがとぎれとぎれの白色系の細い線で描き入れられている。

・経年による汚れや補修の跡は、煉瓦部分の色を変化させて表現している。

・鎧戸や歩道の凸凹は、彩色を何層か重ねて再現している。

・鎧戸の下にベンチがあり、人が背中をこすりつけた跡の汚れも表現されている。

・水平・垂直・斜行の直線を主体とした線が画面を構成している。

・X線写真では、右上部の鎧戸が半ば開いた状態で描かれていた。

・赤外線写真では、画面左の開いた戸口の部分に、うずくまる人の影が映る。

・デルフトのどこを描いた絵なのかについては、諸説ある。可能性がある場所として以下の3か所がある。
①アウエ・ランゲンディク通り25番地:妻カタリーナ・ボルネスの実家の隣。
②フォルデルスフラハト通り19~20番地。
③フォルデルスフラハト通り21番地:フェルメールの両親が経営していた旅館「メーヘレン亭」の裏。15世紀に老人養護施設があった。

・1650年頃からデルフトで都市景観画というジャンルが好まれ始め、フェルメールのパトロンと考えられているピーテル・ファン・ライフェンがフェルメールに制作を依頼したと考えられている。




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参考書籍
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 同朋舎出版 1995年
『週刊美術館 8 フェルメール』 小学館 2000年
『フェルメール全点踏破の旅』 朽木ゆり子著 集英社新書 2006年
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 小林頼子著 八坂書房 2008年
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』 2008年9月
『フェルメール 光の王国』 福岡伸一著 2011年
『限定版 フェルメール全作品集』 小林頼子著 小学館 2012年
『魅惑のフェルメール全仕事』 TJMOOK 2015年1月
『フェルメール展公式ガイドブック』 AERA MOOK 2018年
『フェルメール展』図録 2018年


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フェルメール作品解説探訪 ⑦≪紳士とワインを飲む女≫

フェルメール
01 /14 2019
⑦≪紳士とワインを飲む女≫

・所蔵先:ベルリン国立美術館

・制作年:1658〜59

・サイズ: 65×77cm


[諸解説]
・17世紀初めころから若い女性が集い、賑やかに交歓する場面がさかんに描かれ始め、その後17世紀半ばには、少数の男女が着飾り、室内で遊ぶ情景が好んで描かれるようになる。

・本作品は、同時代にデルフトで活躍したピーテル・デ・ホーホの≪楽しい集まり≫(1658年ごろ)がヒントになっていると言われている。

・比較的大きめの室内の中景に主要モチーフを集める構図で、フェルメールの作品の中でも視野角度が大きい作品の一つ。

・テーブルと手前の椅子の上に楽譜とシタールが置かれている。楽器は西洋美術の伝統では調和や愛の象徴として描かれることが多いが、飲酒と組み合わされると、軽はずみで思慮を欠いた愛に意味を変える。

・男性が女性に向けるまなざしを、フェルメールとしては珍しくはっきりと描いている。

・男女間のエロスの感情を暗示するために自然風景を舞台とすることが多いが、本作品では画中画の風景がで自然風景を代用しているとも考えられる。

・ステンドグラスに描かれた手綱を持つ女性像は「節制」を意味し、画中の男女に節制を求めていることが示唆される。

・1901年に美術館がこの作品を入手した時、ステンドグラスの上に簡素な風景が上描きされており、前所有者がステンドグラスの絵が暗示するものを好まなかったことが推測される。

・本作品では、遠近法が示唆する奥行きと、目が感知する奥行きにズレが生じ、絵の右端に近づくにつれ、部屋が歪んでいる印象を与える。

・私見
紹介する書籍・雑誌によって、絵のタイトルが異なる。
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 では≪紳士とワインを飲む婦人≫
『週刊美術館 8 フェルメール』
『フェルメール全点踏破の旅』
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』
『フェルメール 光の王国』
『限定版 フェルメール全作品集』
上記6書籍・雑誌は≪紳士とワインを飲む女≫
『魅惑のフェルメール全仕事』では≪ぶどう酒のグラス≫
『フェルメール展公式ガイドブック』 
『フェルメール展』図録 
上記3書籍・雑誌では≪ワイングラス≫
2012年までは「紳士とワインを飲む女性」がタイトルの中心で、2015年以降は「ワイングラス」に焦点が置かれている。



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参考書籍
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 同朋舎出版 1995年
『週刊美術館 8 フェルメール』 小学館 2000年
『フェルメール全点踏破の旅』 朽木ゆり子著 集英社新書 2006年
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 小林頼子著 八坂書房 2008年
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』 2008年9月
『フェルメール 光の王国』 福岡伸一著 2011年
『限定版 フェルメール全作品集』 小林頼子著 小学館 2012年
『魅惑のフェルメール全仕事』 TJMOOK 2015年1月
『フェルメール展公式ガイドブック』 AERA MOOK 2018年
『フェルメール展』図録 2018年


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フェルメール作品解説探訪  ⑥≪牛乳を注ぐ女≫

フェルメール
12 /21 2018
⑥≪牛乳を注ぐ女≫

・所蔵先:アムステルダム 国立美術館

・制作年:1658〜59

・サイズ: 45.4×40.6cm


[諸解説]
・単身像としてはドレスデンの≪窓辺で手紙を読む女≫の次に描かれた作品。

・大きさは≪窓辺で手紙を読む女≫の約半分で、当時の風俗画並みの大きさ。

・絵のまん中に立っている女の左側にはたくさんの要素が詰め込まれており、右側はほぼ白い壁のみになっている。

・赤、青、黄、緑という少ない色数でまとめられている。

・消失点はミルク壺の把手を持つ女の右手甲の少し上方にある。

・X線写真と赤外線写真で判明したこと
 ①画面右下の足温器の代わりに洗濯物を入れた大きな籠を描いていた。
 ②背後の壁には絵か地図を描き入れる予定だったと考えられる(女の頭に接して水平な線が見られる)。

・足温器が情熱を意味すること、足温器の後ろのタイルにキューピッドが描かれていることから、この絵が何らかの形で情熱や愛を描こうとしていると解釈する人もいるが、美術史家の多くはそのような寓意は意図されていないと考えている。

・テーブルの天板の形状は台形のように見えるが、正八角形の天板を二つに折った変則六角形と考えられる。青い器の把手の左下、牛乳が注がれる器の左把手の向こう、右把手の右側に天板の3つの角が確認できる。



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参考書籍
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 同朋舎出版 1995年
『週刊美術館 8 フェルメール』 小学館 2000年
『フェルメール全点踏破の旅』 朽木ゆり子著 集英社新書 2006年
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 小林頼子著 八坂書房 2008年
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』 2008年9月
『フェルメール 光の王国』 福岡伸一著 2011年
『限定版 フェルメール全作品集』 小林頼子著 小学館 2012年
『魅惑のフェルメール全仕事』 TJMOOK 2015年1月
『フェルメール展』図録 2018年

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フェルメール作品解説探訪 ⑤≪兵士と笑う女≫

フェルメール
10 /19 2018
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⑤≪兵士と笑う女≫

・所蔵先:ニューヨーク フリック・コレクション

・制作年:1658〜59

・サイズ: 50.5×46cm


[諸解説]

・この作品が描かれた当時、男女が向かい合ってワインを飲み談笑する図には、娼家や旅館・酒場が舞台で、男女の性的な関係があからさまに提示され、それによって教訓を表す働きをしていることが多かったが、この作品ではそういったことを暗示する要素は少なく、2人の男女が金銭を媒介とした客と娼婦なのか、単に恋人または友人同士なのか明確に読み取る要素が省略されている。人物の関係を、観る者の判断に任せるフェルメールの常套手段が見てとれる。

・観る者に半ば背を向けて椅子に座っている男は大きく、彼の前で笑顔をうかべる女性は小さく描かれることで、画面に奥行きが出ている。しかし、2人の人物の大きさの違いと、左側の窓枠の線が消失店に向かって急激に傾斜する点には不自然さが残るため、以後の作品では、複数の人物を最前景に配置することはなくなり、窓の桟などの消失店の傾斜を隠したり緩和するために工夫を講じるようになる。

・2人の人物の視線はほぼ同じ高さにあることは、2人の心理的一体感を漂わせる効果を持つと思われる。

・本作品の構図は、ピーテル・デ・ホーホの≪カード遊びをする2人の兵士≫のそれとの類似がしばしば指摘されているが、相違点も見られる。
【類似点】
 ・矩形の部屋
 ・画面左に窓
 ・テーブルの角を挟んで座る2人の人物
【相違点】
 ・視点が後方に退いているため、人物の大きさに大きな差がみられない。
 ・登場人物はそれぞれ別のことに心を奪われ、相互のかかわりは薄い。

・女性の服、椅子、窓枠の形が≪窓辺で手紙を読む女≫とほぼ同じ。

・女性の頭巾、襟、頭の影の部分、および地図の下の枠の影が明るい青で処理されている。

・消失線が収束する消失点部分の画面に絵の具の欠損があるため、白墨の粉をまぶした紐を使い、透視図法を利用したと推測される。

・背後の壁にかかる地図は、1620年調整の実在の地図の模写と思われる。同じ地図は、彩色は異なるが≪青衣の女≫にも描かれている。




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西洋絵画、西洋美術の画像・壁紙:http://www.salvastyle.com/menu_baroque/vermeer.html

≪カード遊びをする2人の兵士≫
http://art.pro.tok2.com/H/Hooch/z004.htm


参考書籍
『週刊グレート・アーティストNo.70 フェルメール』 同朋舎出版 1995年
『週刊美術館 8 フェルメール』 小学館 2000年
『フェルメール全点踏破の旅』 朽木ゆり子著 集英社新書 2006年
『フェルメール論ー神話解体の試みー 増補新装版』 小林頼子著 八坂書房 2008年
『芸術新潮 やっぱり気になるフェルメール』 2008年9月
『フェルメール 光の王国』 福岡伸一著 2011年
『限定版 フェルメール全作品集』 小林頼子著 小学館 2012年
『魅惑のフェルメール全仕事』 TJMOOK 2015年1月

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