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『日本文学史序説』Paragraph Briefings 世界観的背景 その2

加藤周一
03 /23 2023
⑥日本の土着の世界観が、外来の、はるかに高度に組織され、知的に洗練された超越的世界観と出会った際に示した反応は、外来の思想の「日本化」であった。そしてその「日本化」の方向は、抽象的・理論的な面の切捨て、包括的な体系の解体とその実際的な特殊な領域への還元、超越的な原理の排除、彼岸的な体系の此岸的な再解釈、体系の排他性の緩和へと向かった。

⑦大和朝廷が採用した仏教は、はじめからその現世利益の面を強調し、奈良時代の日本人の世界観が仏教の影響のもとで根本的に変わったと思わせる要素は『万葉集』には見出せない。

⑧仏教の現世的な面の強調は平安時代になっても続くと同時に、「日本化」によって排他的性質を失い、神仏習合が普及した。

⑨十三世紀に興った鎌倉仏教は、現世否定的傾向・超越的絶対者の役割において、日本思想史上の例外である。しかしその後禅宗は世俗化することになる。

⑩徳川時代の朱子学においても、三浦梅園の自然哲学を例外として、非形而上学化・非体系化・抽象的な知的問題から具体的な課題への関心の移動・日常的此岸性の強調を特徴とする「日本化」が進んだ。

⑪日本文学の世界観的背景は次の三種類に分類できる。
 1.世界観の「流行」を代表して各時代を特徴づける外来思想 『日本霊異記』『十住心論』『往生要集』
 2.日本人の世界観の「不易」の面を示す土着の考え方 『古事記』『万葉集』『古今集』
 3.「日本化」された外来思想 『源氏物語』『正法眼蔵』『狂雲集』『平家物語』

⑫近代の日本文学史も、世界観の背景に応じて三つの流れに分類できる。
 1.内村鑑三、宮本百合子
 2.正宗白鳥、川端康成
 3.森鴎外、夏目漱石、小林秀雄、石川淳


使用書籍
・『加藤周一著作集』巻4・巻5 平凡社 1979年



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『夕陽妄語』を読むために 「ソムリエの妻」

加藤周一
03 /22 2023
「ソムリエの妻」 2001.10.24

・バーバラ・ウォルターズ(Barbara Walters 1929〜2022):米国のテレビジャーナリストの草分け的そんざい。作家、テレビ司会者。『トゥデイ』、『ザ・ビュー』の司会、『ABCイヴニング・ニュース』の共同アンカー、『ABCニュース』の記者を務めた。

・ジュリアーニ市長(Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III 1944〜):アメリカ合衆国の政治家、ニューヨーク州弁護士。1994年1月1日から2001年12月31日まで第107代ニューヨーク市長を務める。在任中は同市の犯罪率を大幅に低下させる。



チェック内容
「超大国には、小国にとってよりも、大きな道義的責任、殊に軍事力の行使を自制する責任があるだろう。」



参考書籍
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
精選版 日本国語大辞典


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『日本文学史序説』Paragraph Briefings 世界観的背景 その1

加藤周一
03 /09 2023
世界観的背景
①日本人の歴史観の歴史的な変遷は、土着の世界観の執拗な持続と、そのために繰り返された外来の体系の「日本化」によって特徴づけられる。

②外来の世界観の代表的なものとその影響の時期は、
 1.大乗仏教 7〜16世紀
 2.儒学殊に朱子学 17世紀
 3.キリスト教 16世紀後半と19世紀末〜20世紀前半
 4.マルクス主義 両大戦間
である。

③老荘思想やヨーロッパ19世紀の科学思想は、自然・人間・社会・歴史の全体を説明しようとする包括的な体系ではなかった。

④先述の四つの外来世界観は、抽象的な理論を備え、超越的な存在または原理との関連において普遍的な価値を定義しようとする点において、包括的な体系である。そしてそれは日本の土着の世界観と対照的であったために、決定的な影響を日本文化に与えた。

⑤日本的な土着の世界観を、外来の世界観の影響前の資料である『記』『紀』『風土記』から導き出せば、「抽象的・理論的ではなく、具体的・実際的な思考への傾向、包括的な体系にではなく、個別的なものの特殊性に注目する習慣」となる。



使用書籍
・『加藤周一著作集』巻4・巻5 平凡社 1979年



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『夕陽妄語』を読むために 「「ナショナリズム」再訪」

加藤周一
03 /08 2023
「「ナショナリズム」再訪」 2001.9.21

・サイトウ・キネン・フェスティバル:長野県松本市で毎年開催される音楽祭。小澤征爾が師事した、故・齋藤秀雄氏の没後10年にあたる1984年、メモリアルコンサートを行ったことから生まれたサイトウ・キネン・オーケストラが母体となり、オーケストラとオペラの2本の柱を中心とする音楽祭。小澤征爾総監督の下、1992年9月開始。

・ヤナーチェク(Leoš Janáček 1854~1928):チェコの作曲家。スメタナ、ドボルザークに次ぐチェコの代表的作曲家。民族音楽と近代音楽の語法を統合し、多くの歌劇を発表。

・『蝶々夫人』:プッチーニによって作曲された2幕もののオペラ。長崎を舞台に、没落藩士令嬢の蝶々さんとアメリカ海軍士官ピンカートンとの恋愛の悲劇を描く。

・『ペレアスとメリザンド』:ベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクが書いた戯曲。フランス語で書かれ、1892年にブリュッセルで出版された後、翌1893年にパリで初演。

・『サロメ』:聖書の物語に材をとった、イギリスの作家 オスカー・ワイルドの戯曲。 1893年刊。フランス語で書かれ,作者の友人 A.ダグラスによって英訳 (1894) された。

・スメタナ(Bedřich Smetana 1824~1884):チェコの作曲家。国民意識の強い歌劇を作曲し、チェコ国民音楽の父といわれる。作品に交響詩「わが祖国」など。

・バルトーク(Bartók Béla 1881~1945):ハンガリーの作曲家。コダーイとともに東欧の民謡を録音・採譜し、その素材に基づいて激しい不協和音や打楽器を重視した新しい技法を確立。現代音楽の可能性を開いた。のちアメリカに亡命。



チェック内容
「「ナショナリズム」はその地域性を超える普遍的な-または普遍性を主張する-価値(目標)をそれ自身の中に呼びこむ時に、またその時にのみ、有力なイデオロギーとなる。」



参考書籍
日本大百科全書 小学館
世界大百科事典 平凡社
デジタル大辞泉 小学館
ブリタニカ国際大百科事典 ブリタニカ・ジャパン
精選版 日本国語大辞典


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『日本文学史序説』Paragraph Briefings 社会的背景 その4

加藤周一
02 /23 2023
⑯文学者が集団へ組み込まれる傾向は、日本文学の素材を限定した要因となった。平安時代の勅撰集に歌われたのは、四季と、恋と、旅で、春は花に秋は紅葉に集約され、月の歌は限りなく星の歌は極めて少ない。藤原期の物語は貴族社会の男女の感情世界を描くことに集中した(『今昔物語』の本朝部は偉大な例外である)。

⑰この事情は鎌倉時代から室町時代にかけても根本的には変わらなかった。連歌と能は、素材の面では宮廷文化を継承し、軍記物は武士の生活は描くが農民を含め民衆の生活は描かなかった。民衆の中の一人である役者のその場の即興に発した狂言だけは、武家の下僕や農夫や職人や、その女房たち、盲人や盗人や詐欺師までが登場し、唯一の例外である。

⑱徳川時代の社会では、階層とその役割の分化が進んだが、各階層の文化のなかでは、一時期の文学の素材が特別の範囲に限定される傾向が著しかった(洒落本・黄表紙・人情本の素材はほとんど遊里)。

⑲二十世紀前半の私小説では作家自身の日常生活そのものの他には何も書かなかった。その理由は、文学者が文壇に組み込まれていて、政治や企業や学問や工業生産や農村の現場をほとんどまったく知らなかったことにある。

⑳社会によく組み込まれた作家は、その社会の価値の体系を批判することも、批判を通じて超越することもできない。しかしあたえられた価値を前提としながら、感覚をとぎすまし、表現を洗練することはできた(清少納言)。



使用書籍
・『加藤周一著作集』巻4・巻5 平凡社 1979年



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Radiology2003

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