fc2ブログ

巡回健診診察マニュアル 146.最近既往歴で見た疾患 高安動脈炎

医療
09 /14 2023
高安動脈炎 (Takayasu arteritis:TA)

1.概念
・大動脈及びその主要分枝や肺動脈、冠動脈に炎症性壁肥厚をきたし、またその結果として狭窄、閉塞または拡張病変を来す原因不明の非特異的大型血管炎。

・狭窄または閉塞を来した動脈の支配臓器に特有の虚血障害、あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす。

・病変の生じた血管領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する。

・全身の諸臓器に多彩な病変を合併する。

・10代後半から30代までの若い女性に好発する。男女比は1:8。

・これまで高安動脈炎(大動脈炎症候群)とされていたが国際分類に沿って、高安動脈炎と統一した。また、橈骨動脈脈拍の消失がよく見られるため、脈無し病とも呼ばれている。

・病名は、1908年に本疾患を発見した金沢大学眼科の高安右人博士の名に由来する。


2.原因
・不明

・何らかのウイルスなどの感染が本症の引き金になっている可能性がある。それに引き続いて、自己免疫的な機序により血管炎が進展すると考えられている。

・特定のHLAとの関連や疾患感受性遺伝子(SNP)も見つかっており、発症には体質的な因子が関係していると考えられる。


3.症状
・病初期より微熱又は高熱や全身倦怠感が数週間や数か月続く。そのため不明熱の鑑別のなかで本症が診断されることが多い。

・臨床症状のうち、最も高頻度に認められるのは、上肢乏血症状。特に左上肢の脈なし、冷感、血圧低値を認めることが多い。上肢の挙上(洗髪、洗濯物干し)に困難を訴える女性が多い。

・頸部痛、上方視での脳虚血症状は本症に特有。

・本症の一部に認められる大動脈弁閉鎖不全症は本症の予後に大きな影響を与える。

・頻度は少ないが、冠動脈に狭窄病変を生じることがあり、狭心症・急性心筋梗塞を生じる場合もある。

・頸動脈病変による脳梗塞も生じうる。

・本邦の高安動脈炎は大動脈弓周囲に血管病変を生じることが多い。

・下肢血管病変は腹部大動脈や総腸骨動脈などの狭窄により生じ、間欠性跛行などの下肢乏血症状を呈する。

・10%程度に炎症性腸疾患を合併し、下血や腹痛を主訴とする。


4.診断
・血液検査による炎症反応の上昇と超音波、造影CT、MRI、PET-CTや血管造影検査により血管の狭窄、拡張および血管の壁が厚くなっていることを確認することで診断。


5.治療
・内科療法は炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドが使われる。症状や検査所見の安定が続けば漸減を開始する。漸減中に、約7割が再燃するとの報告がある。

・再燃の場合は免疫抑制薬またはトシリズマブ皮下注の併用を検討する。

・血栓性合併症を生じるため、抗血小板剤、抗凝固剤が併用される。

・外科療法は特定の血管病変に起因する虚血症状が明らかで、内科的治療が困難と考えられる症例に適用される。炎症が沈静化してからの手術が望ましい。外科的治療の対象になる症例は全体の約20%。


6.予後
・早期発見の場合、治療も早期に行われるため予後が著しく改善し、多くの症例で長期の生存が可能になりQOLも向上してきている。

・予後を決定するもっとも重要な病変は、腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧、大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全、心筋梗塞、解離性動脈瘤、動脈瘤破裂、脳梗塞のため、早期からの適切な内科治療と重症例に対する適切な外科治療、血管内治療によって長期予後の改善が期待できる。



参考サイト
・難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/290

・国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/takayasu_arteritis/

・日本リウマチ学会
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/takayasudomyakuen/



本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ラン
スポンサーサイト



巡回健診診察マニュアル 145.最近既往歴で見た疾患 強直性脊椎炎

医療
08 /30 2023
強直性脊椎炎 (ankylosing spondylitis: AS)

1.概念
・背骨および骨盤を中心に全身の腱や靱帯に原因不明の炎症が起こり、長い年月の中で「強直」して運動制限が生じる疾患。

・脊椎関節炎(spondyloarthritis: SpA)という疾患群の一つに分類される。

・初期には背骨や骨盤の関節に付着する腱・靭帯が炎症を起こすが、進行するとその腱・靭帯に石灰が沈着して骨のように硬くなり、背骨が曲がらなくなる。

・欧米では10万人当たり100~200人程度だが、日本では10万人当たり6~40人程度と考えられている。

・若い男性に多く(男女比8:1程度)、9割は40歳までに発症。


2.原因
・HLA(ヒト白血球抗原)のB27型の陽性率が高く(患者の90%に陽性、逆にB27陽性の人が発病するのは僅かで、B27陽性すなわち強直性脊椎炎ではない)

・家族内発生もあるため(10数%)、なんらかの遺伝的素因があり、これに後天的な要因、たとえば細菌感染などが加わり免疫異常が生じた結果発症すると考えられている。


3.症状
・最もよくみられる初期症状はうなじや背中、腰、あるいは骨盤のこわばりや痛み。

・肩や股関節の痛みも1/3程度の頻度でみられる。

・胸骨と肋骨・鎖骨の接合部、脊椎棘突起、腸骨稜、大腿骨大転子、かかと、足底筋膜などの痛みが初期にあることもあう。

・夜間や朝方などに安静にしていると痛みは強くなり、運動することで良くなるという特徴的な症状が3か月以上続く。一時的に痛みが消失もしくは改善することもあるが、徐々に痛みの箇所・頻度が増え、また症状のない時間が短くなっていき、最後は常に症状が出ているようになる。

・重症では背骨が石灰の沈着した靭帯で固まって曲がらなくなり、腰を曲げたり振り返ったりする動作ができなくなったり、肺活量が減ることもある。

・長期の炎症により骨密度が低下して脊椎の骨折の頻度が高くなる。

・3割前後に急性虹彩毛様体炎を伴うことがある。

・大動脈弁閉鎖不全症、炎症性腸疾患、乾癬・掌蹠膿疱症、アミロイドーシス、肺線維症、尿路結石なども合併することがある。


4.診断
・改訂ニューヨーク診断基準を用いて診断


5.治療
・完治のための治療法は確立されていない。

・リハビリテーション、薬物治療、手術、装具による補助などがある。リハビリテーションは大切であり、毎日スポーツや体操を積極的に行い、生活の中でいかに変形を防ぎ、体の柔軟性を維持するのかが大事になる。

・薬物治療としては、まずは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDsとも呼ばれます)が中心。抗リウマチ薬は体軸症状には無効であり、末梢関節炎を合併している場合はサラゾスルファピリジンが有効な場合がある。

・内服薬で効果が不十分な場合には、ステロイドの関節などへの局所注射も考慮される。

・上記治療で十分な疾患活動性のコントロールが得られない場合は、生物学的製剤を考慮する。生物学的製剤では、現在はTNF阻害薬ではインフリキシマブ(商品名:レミケード®)とアダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)、IL-17阻害薬ではセクキヌマブ(商品名:コセンティクス®)、イキセキズマブ(商品名:トルツ®)とブロダルマブ(商品名:ルミセフ®)、JAK阻害薬ではウパダシチニブ(商品名:リンヴォック®)が保険で使用可能。

・関節の変形がすでに起こってしまった場合には薬物治療でもとに戻すのは困難と考えられており、股関節などに著しい疼痛がある場合や、関節が固まって動きが大変不自由な場合には、整形外科と連携して手術を行う。



参考サイト
・日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/ankylosing_spondylitis.html

・慶應義塾大学病院
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000610.html



本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ラン

巡回健診診察マニュアル 144.最近既往歴で見た疾患 母指CM関節症

医療
08 /16 2023
母指CM関節症

1.概念
・CM関節に生じる変形性関節症。

・母指CM関節は、親指(母指)の付け根と手首の間にある関節で、大菱形骨という手根骨に第1中手骨が乗った構造。

・CM関節:手根中手関節 (carpometacarpal joint)


2.原因
・使い過ぎや加齢に伴う関節軟骨の摩耗、滑膜の炎症と、関節を支持している靭帯が緩むことによる亜脱臼。

・女性ホルモンのエストロゲンは滑膜の炎症や腫れを抑えると言われ、更年期にエストロゲンが急激に減少することで手指のさまざまな痛みを発症すると言われている。



3.症状
・物をつまむ時やビンのふたを開ける時など母指(親指)に力を必要とする動作で、手首の母指の付け根付近の痛み。

・進行すると関節付近が膨らんできて母指が開きにくくなる。



4.診断
・母指の付け根のCM関節のところに腫れがあり、押すと痛みがある。母指を捻るようにすると強い痛みが出る。

・レントゲン検査:母指CM関節の軟骨がすり減って関節が狭くなっていたり、骨棘・亜脱臼が見られる。



5.治療
・まずは安静にすることが一番。

・テーピングや固定装具(サポーター)などを使い、なるべく負担をかけないようにする。

・痛みが強い場合は消炎鎮痛剤の湿布、塗り薬、内服を使用。こうした処置を続けても痛みは治まらない場合は関節内のステロイド注射。数回を目処に3か月から半年程度の間隔をあけて行う。

・関節固定術、関節形成術などの手術。



参考サイト
・日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/rhizarthrosis.html

・兵庫医科大学病院
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/89

・東日本整形外科
https://www.seikei-tegeka.com/cm/


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ラン

巡回健診診察マニュアル 143.最近既往歴で見た疾患 ジベルばら色粃糠疹

医療
08 /02 2023
ジベルばら色粃糠疹

1.概念
・突然、全身あるいは体幹を主とした部位に紅斑が多数出現し、その紅斑の体幹における配列模様がクリスマスツリーの様に見える皮膚疾患。

・20~30歳代に多く見られ、夏よりも冬に多いと言われている。

・フランスの皮膚科医でこの病気を初めて論文に記載した医師の名前に由来。


2.原因
・不明

・突発性発疹症の原因であるヘルペスウイルス6、7型の再活性化が原因となることがあると推定されているが、確定はされていない。


3.症状
・ヘラルドパッチと呼ばれる親指ほどの大きさのピンク色の色調を示す皮疹で始まる。

・皮疹が発生する1~2週間前に、感冒様症状を伴うこともある。

・ヘラルドパッチが見られてから数日~2週間ほどの間に、多くの皮疹が出現。胸腹部や背中が好発部位で、首や顔、口の中にも見ることがある。

・数えきれないほどの皮疹が出現することになり、全体がクリスマスツリーのように見えることも特徴。

・痒みはほとんどない。


4.診断
・基本的には問診と身体診察のみで診断可能

・真菌症、梅毒、ジアノッティ病、脂漏性皮膚炎などとの鑑別が必要。


5.治療
・ほとんどの場合は特別な治療がなくても1~2ヶ月で症状は改善して痕を残さずに自然治癒する。

・かゆみを伴う場合や発疹がひどい場合には服用抗ヒスタミン薬、発疹に対してはステロイド外用薬が用いられる。



参考サイト
・松田知子皮ふ科
https://tomokohifuka.com/hifu/03/S_04.html

・武蔵小杉皮ふ科
https://m-kosugihifuka.com/ghiber/


本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ラン

巡回健診診察マニュアル 142.最近既往歴で見た疾患 不整脈源性右室心筋症

医療
07 /18 2023
不整脈源(原)性右室心筋症(ARVC/ARVD Arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy or dysplasia)

1.概念
・原因不明の右室心筋の変性、脂肪浸潤、線維化を特徴とし、右室の拡大や収縮不全、右室起源の心室性不整脈を呈する進行性の疾患。

・発生頻度は5000人に1人といわれる。30歳前後での発症が多い。小児での発症は少ない。

・常染色体優性遺伝形式をとることが多い。常染色体優性ARVCの発端者は、de novoの病的バリアントが生じたことで発症することもある。de novo変異により生じた症例の割合はわかっていない。常染色体優性ARVCの罹患者の子供は、50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ。ARVCは二遺伝子遺伝形式をとることもある(すなわち、2つの異なる遺伝子の片方のアレルに、それぞれ病的バリアントがある)。


2.原因
・細胞骨格を構成するタンパク質、とくにデスモソーム蛋白の遺伝子変異で本症が発生することがある。デスモソーム蛋白のplakophilin-2(PKP-2)の遺伝子異常が多い。遺伝子異常が判明しない場合には、原因は不明。


3.症状
・動悸、易疲労など。無症状のこともある。
・突然死が最初の症状のこともある。


4.診断
・心電図:右側胸部誘導V1-V3のT波の陰転化。V1-V3のQRS波の後にノッチ(ε波)を認める。左脚ブロック型の心室頻拍を認める。
・心エコー:右室に瘤形成、肥厚した肉柱、突出bulgingを認める。右室全体の収縮低下を認める。
・MRI、CT:右室に瘤形成、肥厚した肉柱、突出bulgingを認める。右室全体の収縮低下を認める。脂肪浸潤を認める。MRIで、遅延性濃染を認めることもある。
・心臓カテーテル、心筋生検:右室造影で瘤形成、4mm以上の肥厚した肉柱を認める。右室全体の収縮低下を認める。心筋生検で、脂肪浸潤、線維化が著明。


5.治療
・不整脈と心不全に対する治療をおこなう。
・持続性心室頻拍や心室細動など不整脈に対する治療は、薬物療法、植え込み型除細動器(ICD),カテーテルアブレーションが考慮される。
・不整脈に対しては、抗不整脈薬を投与する。β遮断薬やIII群抗不整脈薬(アミオダロン、ソタロール)が考慮される。
・左心機能低下例、心停止蘇生例、心室頻拍の既往、右心不全徴候のある例に対しては、ICD植え込みが適応となる。
・右室の脂肪変性による線維化瘢痕部位のリエントリーに対して回路の切断を図る。
・慢性心不全症状に対しては、抗心不全薬物療法がなされる。
・内科的治療に反応しない場合には、心臓移植の適応となる。その前に状態悪化が予想される時は、人工心臓の植え込みが適応となる場合がある


6.予後
・小児での予後はいまだ不明であるが、心不全死、突然死がありうる



参考サイト
・小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/04_13_017/



本日もご訪問いただきありがとうございました。



備忘録・雑記ラン

Radiology2003

本日もご訪問いただきありがとうございます。
日々の生活の中で感じたこと・調べたことを備忘録として残しています。